11年目の秋、訪れた非常な宣告
今年も辛く、切ない季節がやってきた。
タイガースは3日、育成1人・支配下7人の計8選手に来季の契約を結ばないことを通達した。いわゆる“戦力外通告”だ。
その中には、2012年ドラフト2位入団の北條史也の名前もあった。将来の主力として期待され、実際に一軍でその潜在能力を発揮した時間も少なくなかった。ただ、世代交代の波も確実に押し寄せてきており、リーグ優勝を果たした今季、一軍昇格は最後までなかった。
戦力外を言い渡された後、北條はスーツ姿で一軍が全体練習を行う甲子園、二軍の鳴尾浜球場を訪問。特に鳴尾浜では、あいさつにやってくる後輩1人1人と握手をし、中には涙を流す若手選手もいた。
二軍での自身の成績も奮わず、昇格の声もかからない中でも、背番号26はベンチでずっと声を張り上げてきた。全力疾走も怠らない。そんな姿勢は後輩たちへのメッセージにもなっていた。握手する多くの選手たちからは“ありがとうございました”という心の声が漏れているようだった。
最終打席で描いたアーチ
「構想外ってことで、来季の。ちょっとは予想してたんで。そこまで頭真っ白っていうことではないので。11年お世話になって球団には感謝してます」
29歳はつとめて冷静に厳しい現実を受け止めていた。光星学院高時代に甲子園でしのぎを削ってきた大阪桐蔭の藤浪晋太郎とドラフト1位、2位でタイガースに入団。エースと中軸として甲子園で暴れ回る未来予想図を多くのファンが描いてきた。
高卒4年目の2016年には当時の金本知憲監督に素質を見出され、自己最多の122試合に出場し105安打をマーク。不動の遊撃レギュラーだった鳥谷敬から一時的にポジションを奪い取ってスターダムを駆け上がるかに思われたが、度重なる故障で成長曲線は大きく狂った。
18年、守備でダイビングキャッチを試みた際に左肩を亜脱臼。21年には左肩手術も経験した。リハビリを経て復帰した昨年も、患部の痛みと戦いながらプレーしてきた。
「チャンスをもらいながら、開幕スタメンの年(17年)に全然ダメだったのは悔しいというか。後はケガがちょっと多かった」
チャンスをつかみきれなかったこと、足下をすくわれた故障の多さを悔やんだ。
本人は現役続行を希望。結果的にタイガースでのラストゲームとなった10月1日のウエスタン・リーグ広島戦では、最終打席で左翼へアーチを懸けた。
「自分の中では現役希望ですけど。家族もいるので相談しながら決めたい」
プロ野球選手・北條史也の物語の続きを見たいのは、筆者だけではないはずだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)