巨人に阿部慎之助新監督が誕生して1週間がたつ。
この間に新首脳陣の輪郭も見えてきた。二岡智宏二軍監督が一軍昇格、外部からは西武・内海哲也二軍投手コーチの古巣復帰が内定している。一方で大久保博元前打撃チーフや、阿波野秀幸投手チーフコーチらが退団、原辰徳前監督の影響色濃い顔ぶれから、阿部時代へと世代交代も進んでいるようだ。
14日からは、阿部体制の下で秋季キャンプがスタートする。今月6日に行われた就任会見では、どんな指針? どんなチームカラー? と問われて「まだそこまで考えられていない」と初々しさものぞかせた新指揮官だが、キャンプを通じて目指すべき方向や“阿部カラー”が示されるはず。ここから勝負は始まる。
球団史上初の2年連続Bクラスに沈んだ原巨人の敗因は様々な要因が指摘されている。「チームの若返りと勝利」をテーマに掲げて臨んだ今季は投手で山﨑伊織、赤星優志らが育ち、打者では秋広優人のレギュラー獲りやルーキーの門脇誠がシーズン後半からショートの定位置を掴むなど一定の成果を上げた。
一方で「勝利」のための施策は十分だったのか? 特に原前監督がポイントに挙げた「1、2番打者の固定」は果たされず、それが機動力を削ぐ形になったのは痛かった。主砲の岡本和真選手が本塁打と打点の二冠に輝いても、28本がソロ、18本がイニングの先頭でのアーチでは十分な破壊力とはいかない。これも上位打線の出塁率の悪さが響いている。リーグ優勝を果たした阪神が近本光司、中野拓夢の1、2番コンビで塁上を賑わし、盗塁を仕掛ける。また、下位打線でも「つなぎの野球」でそつなく得点力をあげていったのとは対照的だ。
一部マスコミでは、早くも近未来の1、2番コンビとして高卒ルーキーの浅野翔吾と門脇選手の名前を上げている。だが、有望株とは言え、浅野が来季にそこまで成長するか? 2年目を迎える門脇だって、他チームのマークはこれまで以上に厳しくなる。阿部新監督にしてもV奪回が至上命題である以上、育成だけに目を向ける余裕はないだろう。
そこでキーマンとなり得るのが吉川尚輝選手の存在だ。
走攻守三拍子揃った一級品の素材は誰もが認めるところ。特に二塁の守備は広島・菊池涼介選手と比べても遜色ない。今季は打率.256と本来の実力を出し切れなかった。自慢の俊足も4盗塁と精彩を欠き、シーズン終盤では8番が定位置となってしまった。
原前監督の期待は大きく、何度も上位打線で起用したが、結果に結びつかず、おまけにバントや進塁打と言った小技が思いのほか上手くない。猫の目打線の元凶のようになってしまったが、V9時代の0Bである柴田勲氏も週刊誌上で「なぜ、吉川が8番なのかがわからない。打線をいじくりすぎ」と警鐘を鳴らしている。
同じタイプで不動の2番を務めた阪神・中野との差を比較してみる。打席数が違うため一概に比較できないが、中野がリーグ最多タイ164本の安打と20盗塁を記録したのに対して、吉川は110安打、4盗塁。さらに顕著なのは併殺打が5の中野に比べて吉川は自己ワーストの12個を数えている。
これは何を意味するのか? チームの指針として、四球での出塁や進塁打の重要性を打ち出した岡田阪神に対して、巨人に緻密な戦略があったとは言い難い。バントが下手な吉川なら、教え込めばいい。これだけ併殺打が多いなら進塁打の重要性をもっと説き続ける必要が担当コーチにはある。こうしたチームとしての共通認識と進むべき道を指揮官が明確にすればチームは生まれ変わる。脇役不在の巨人打線にあって、他チームの脅威となるのが吉川の復活である。仮に2割5分の打率でも、守備と走塁で貢献すれば3割打者と同等以上の価値がある。
前回の当連載で「巨人はもう常勝軍団の看板を下ろすべき」と指摘したが、阿部監督も「常勝軍団を目指す」と口にする。
だが、過去の常勝軍団には大きな特徴がある。ON全盛のV9巨人には、前述の柴田以外に高田繁、土井正三、黒江透修ら。199年代を中心とした無敵のレオ軍団には秋山幸二、清原和博、オレステス・デストラーデの周りを石毛宏典、辻発彦、平野謙らの名脇役が固めていた。
球団史上初の捕手出身監督なら、相手チームに何をやって来られたら一番嫌なのかは熟知しているはずだ。バイプレーヤーが光ってこそ、チームも輝く。阿部巨人の喫緊の課題である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
この間に新首脳陣の輪郭も見えてきた。二岡智宏二軍監督が一軍昇格、外部からは西武・内海哲也二軍投手コーチの古巣復帰が内定している。一方で大久保博元前打撃チーフや、阿波野秀幸投手チーフコーチらが退団、原辰徳前監督の影響色濃い顔ぶれから、阿部時代へと世代交代も進んでいるようだ。
14日からは、阿部体制の下で秋季キャンプがスタートする。今月6日に行われた就任会見では、どんな指針? どんなチームカラー? と問われて「まだそこまで考えられていない」と初々しさものぞかせた新指揮官だが、キャンプを通じて目指すべき方向や“阿部カラー”が示されるはず。ここから勝負は始まる。
球団史上初の2年連続Bクラスに沈んだ原巨人の敗因は様々な要因が指摘されている。「チームの若返りと勝利」をテーマに掲げて臨んだ今季は投手で山﨑伊織、赤星優志らが育ち、打者では秋広優人のレギュラー獲りやルーキーの門脇誠がシーズン後半からショートの定位置を掴むなど一定の成果を上げた。
一方で「勝利」のための施策は十分だったのか? 特に原前監督がポイントに挙げた「1、2番打者の固定」は果たされず、それが機動力を削ぐ形になったのは痛かった。主砲の岡本和真選手が本塁打と打点の二冠に輝いても、28本がソロ、18本がイニングの先頭でのアーチでは十分な破壊力とはいかない。これも上位打線の出塁率の悪さが響いている。リーグ優勝を果たした阪神が近本光司、中野拓夢の1、2番コンビで塁上を賑わし、盗塁を仕掛ける。また、下位打線でも「つなぎの野球」でそつなく得点力をあげていったのとは対照的だ。
一部マスコミでは、早くも近未来の1、2番コンビとして高卒ルーキーの浅野翔吾と門脇選手の名前を上げている。だが、有望株とは言え、浅野が来季にそこまで成長するか? 2年目を迎える門脇だって、他チームのマークはこれまで以上に厳しくなる。阿部新監督にしてもV奪回が至上命題である以上、育成だけに目を向ける余裕はないだろう。
今の巨人打線求められるバイプレーヤーの存在
そこでキーマンとなり得るのが吉川尚輝選手の存在だ。
走攻守三拍子揃った一級品の素材は誰もが認めるところ。特に二塁の守備は広島・菊池涼介選手と比べても遜色ない。今季は打率.256と本来の実力を出し切れなかった。自慢の俊足も4盗塁と精彩を欠き、シーズン終盤では8番が定位置となってしまった。
原前監督の期待は大きく、何度も上位打線で起用したが、結果に結びつかず、おまけにバントや進塁打と言った小技が思いのほか上手くない。猫の目打線の元凶のようになってしまったが、V9時代の0Bである柴田勲氏も週刊誌上で「なぜ、吉川が8番なのかがわからない。打線をいじくりすぎ」と警鐘を鳴らしている。
同じタイプで不動の2番を務めた阪神・中野との差を比較してみる。打席数が違うため一概に比較できないが、中野がリーグ最多タイ164本の安打と20盗塁を記録したのに対して、吉川は110安打、4盗塁。さらに顕著なのは併殺打が5の中野に比べて吉川は自己ワーストの12個を数えている。
これは何を意味するのか? チームの指針として、四球での出塁や進塁打の重要性を打ち出した岡田阪神に対して、巨人に緻密な戦略があったとは言い難い。バントが下手な吉川なら、教え込めばいい。これだけ併殺打が多いなら進塁打の重要性をもっと説き続ける必要が担当コーチにはある。こうしたチームとしての共通認識と進むべき道を指揮官が明確にすればチームは生まれ変わる。脇役不在の巨人打線にあって、他チームの脅威となるのが吉川の復活である。仮に2割5分の打率でも、守備と走塁で貢献すれば3割打者と同等以上の価値がある。
前回の当連載で「巨人はもう常勝軍団の看板を下ろすべき」と指摘したが、阿部監督も「常勝軍団を目指す」と口にする。
だが、過去の常勝軍団には大きな特徴がある。ON全盛のV9巨人には、前述の柴田以外に高田繁、土井正三、黒江透修ら。199年代を中心とした無敵のレオ軍団には秋山幸二、清原和博、オレステス・デストラーデの周りを石毛宏典、辻発彦、平野謙らの名脇役が固めていた。
球団史上初の捕手出身監督なら、相手チームに何をやって来られたら一番嫌なのかは熟知しているはずだ。バイプレーヤーが光ってこそ、チームも輝く。阿部巨人の喫緊の課題である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)