真鍋慧と佐倉侠史朗は「高校ビッグ4」として注目されたが…
今年のドラフト会議は、「大砲候補の高校生一塁手」にとっては厳しい現実が待っていた。
高校通算62本塁打を誇る広陵(広島)の真鍋慧が指名されなかったことは話題を集めた。
広陵のボンズの愛称で親しまれ、高校生離れした体格から放たれる飛距離は世代トップクラスと評されていた。
本人は4位以下の指名であれば大学進学を希望。3位までに指名できなかった各球団は、真鍋の意向を尊重して指名を見送った。
また、高校通算31本塁打を数えた九州国際大付(福岡)の佐倉侠史朗は、ソフトバンク育成3位での指名となった。
ソフトバンクに1位指名された大阪桐蔭(大阪)・前田悠伍、高校通算140本塁打の花巻東(宮城)・佐々木麟太郎とともに、真鍋、佐倉は「高校ビッグ4」とくくられる注目の存在だった。
佐倉は、今年4月に実施された高校日本代表候補選手の強化合宿に招集され、木のバットを苦に感じさせないパンチ力を見せてアピールしていた。
しかし、支配下指名を勝ち取るまでには至らなかった。
「ドラフトの指名順位は実力順ではなく必要な順」
NPBのスカウトからは何度も「ドラフトの指名順位は実力順ではなくチーム編成上、必要な順」と聞いてきた。
指名順位は、球団の補強ポイントに合致する選手を取りこぼさないように決まっていく。
その点で言えば、助っ人外国人でも補える一塁手を補強ポイントに挙げるチームは限られる。一塁手よりも即戦力投手や二遊間を守れる内野手から優先的に指名されていくのは、今年に限った話ではないのだ。
また、「左打ちの一塁手」の苦戦は、真鍋、佐倉の2人だけではなかった。
高校通算29本塁打の左の大砲である京都翔英(京都)の小笠原蒼は、DeNAから育成3位での指名となった。
あるスカウトからは「飛距離だけなら高校生の中でトップクラス」との高い評価を聞いていたものの、育成での指名となった。
対照的に、同じ一塁手ながら右打ちで高校通算22本塁打の沖縄尚学(沖縄)・仲田侑仁は、広島から4位で指名された。主に一塁を守る高校通算49本塁打の鹿児島城西(鹿児島)・明瀬諒介も日本ハムから4位で指名された。
「左打ちの高校生一塁手」の需要が低かった年
この「左打ち」か「右打ち」かは、明暗を分ける大きな要素となった。
NPB12球団の大半で左打者がレギュラーの多くを占めており、多くの球団が「右打ち内野手」を補強ポイントに挙げていた。
実際に支配下指名された高校生野手は、右打者8人に対して左打者3人のみ。右打ちが積極的に選ばれた。
そして何より、プロの一軍でレギュラーを奪うためには打力だけでは足りない。必ず守備力が必要になる。
もちろん、高校生に走攻守三拍子を求めるのは酷だ。プロでの徹底した守備練習を通して技術を向上させていくことになる。
ただし、一軍で通用するまでに数年単位の時間が必要になるのであれば、大学や社会人で実戦経験を積みながら鍛えた方が守備向上の近道になることもある。
広陵・真鍋ら高校生一塁手もプロで鍛えれば間違いなく守備力を向上できる素質を備えているとはいえ、スカウトに守備面をアピールする場面がなかなか訪れなかった。
ドラフト前には「今年は1位候補の投手の数はそろっているが、1位候補と2位以下の投手の実力差が大きい」との声もあった。
即戦力投手を補強したい球団は2位以降でも積極的に投手を指名していく必要があり、高校生野手の上位指名を推薦しづらい年でもあった。
ドラフトは、多くの要素が複雑に絡み合いながら進んでいく。
実力が高く評価されていたとしても、左打ちの高校生一塁手には展開の向かないドラフトだった。
文=河合洋介(スポーツニッポン・アマチュア野球担当)