胴上げで握りしめていた横田慎太郎さんのユニホーム
“約束の日本一”を果たしタイガースの岩崎優は、仲間の手で3度宙に舞った。
3勝3敗で迎えたバファローズとの日本シリーズ第7戦。7点リードの9回二死で登板し、いきなり頓宮裕真にソロを被弾したものの、最後は杉本裕太郎を左飛に仕留めた。
ナインにもみくちゃにされた後、岡田彰布監督の次に背番号「13」が胴上げされた。その手には今年7月に亡くなった横田慎太郎さんのユニホームも握りしめられていた。
「何とも言い表せない。ホッとしてます。誰でも立てるとこじゃないので。最後勝ったチームの、最後投げてたピッチャーだけで。光栄ですし、チームメート、首脳陣、みんなに感謝です」
リーグ優勝チームとしてクライマックスシリーズ・ファイナルステージでカープを破り、リーグ3連覇中のオリックスとの関西ダービーを制しての頂点に安堵をにじませた。
実は「怒り」にも似た感情をにじませて守護神は確固たる決意のもとマウンドに上がっていた。
きっかけとなったのはレギュラーシーズン最終戦だった10月4日のスワローズ戦。
勝てば先発・大竹耕太郎の最高勝率のタイトルが確定する中で救援に失敗した。
「ただの失敗だったら切り替えられるけど、人のタイトルを消してしまったわけですから。大竹の勝ちも(6月17日のホークス戦と合わせて)2度消してる。自分はタイトル(最多セーブ)獲ったらいけないだろう、とも思いましたし」
人知れず、苦悩し2日間は自問自答を続けたそうだ。
ただ、終わった試合は返ってこない。プロの世界で生きてきた10年目左腕は重々承知している。
前を向けたのは“この先”の景色を後輩に見せることを使命にしたからだった。
「せめてもの…ですけど、大竹に最後に(日本一という)最高の景色を見せたいですよね。それも一つのモチベーションになる」
決意はボールに乗り移った。
CSファイナルステージでは3連投で追いすがるカープ打線をねじ伏せ、日本シリーズでも3試合に登板して役割を果たした。
「みんなに感謝」という言葉は大竹だけでなく、自身までバトンをつないでくれた先発投手、同じプルペンで結束した救援陣、投手陣を攻守で援護する野手、そしてかけがえのない同期入団の1人である横田慎太郎さんに向けられたものだ。
脳腫瘍のため28歳で亡くなった横田さんの思いを「背負って投げてきたつもり」と胸に秘めてきた。
「(日本一を横田さんが喜んでくれる)そう信じてます」
寡黙な男は、小さくうなずいた。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)