白球つれづれ2023・第46回
野球のアジアチャンピオンシップが16日から東京で開幕する。
日本、韓国、台湾、豪州の4か国が参加してアジアのナンバーワンを競う大会だが、侍ジャパン・井端弘和監督のデビュー戦としても注目が集まる。
3月のWBCで念願の世界一を果たして栗山英樹監督が退陣。新監督の誕生までには紆余曲折があった。
工藤公康元ソフトバンク監督や古田敦也元ヤクルト監督ら大物の名前が取り沙汰される中で、候補者選びは難航。
26年開催予定の次回WBCまでの拘束時間が長いこと、大谷翔平(現エンゼルスからFA中)らのメジャー組も含めた豪華布陣で世界一の後では、負担が大きすぎることなどで交渉はまとまらなかったと言われる。
こうした中で誕生したのが井端ジャパンである。
現役時代は主に中日で活躍。ゴールデングラブ賞7度受賞の守備の名手で、荒木雅博と組んだ鉄壁の二遊間は「アライバ・コンビ」として今でもファンの記憶に残っている。
選手として日本代表で活躍、現役引退後は侍ジャパンのコーチや世代別のU-12監督を務めるなど指導者としてのキャリアも豊富だ。
それでも、すんなり井端ジャパン誕生といかなかったのは、歴代の監督に比べてNPBの指導者歴もなく、地味な存在だったからだろう。任期もとりあえず来年秋に予定される国際大会「プレミア12」までとし、その結果次第で先々の契約もあり得る。つまり、言葉は悪いが「仮免中」の立場とも言える。
森保一監督と井端弘和監督の共通点とは
似たような立場から今では押しも押されぬ名将になった人もいる。サッカー日本代表の森保一監督である。
就任当時は、こちらも地味な存在で、スター監督のような存在感はなく人気面でも不安視された。日本代表の成績も一進一退で一時は退任を求める声が大きくなった時期もある。それでも日本独自のゲームスタイルを確立すると22年のW杯カタール大会ではドイツ、スペインと言う世界の強豪を撃破して世界を驚かせた。同大会後には初の2大会連続の指揮を執ることが決まった。今では協会の信頼も絶大だ。
現役時代は共に堅実な守備職人。コツコツとキャリアを積み重ねて日本代表のトップに上り詰めたキャリアも似ている。この先は“野球界の森保”になってもらいたいと願わずにはいられない。
その井端ジャパンの初陣は黒星からスタートした。
10日に行われた巨人との強化試合では0-1の完封負け。それでも2日後の広島戦では打線が終盤に爆発して6-3の逆転勝ちで、本番への態勢を整えた。
「パワー+スモールベースボール」が新監督の目指す目標。従来の日本的な小技に加えて、近年ではパワーでも強豪国と引けをとらない逞しさを加味して本番に臨む。
広島戦では早速、阪神のルーキー・森下翔太選手が豪快な一発で期待に応える。クリーンアップに広島の小園海斗選手を起用して「つなぎの野球」もテストしている。これから「井端色」が、さらに出てくるだろう。
今回の侍ジャパンは24歳以下を中心にオーバーエイジを加える編成だが、小粒な感は否めない。
本来なら条件に合致する佐々木朗希、宮城大弥、高橋宏斗らの強力投手に、村上宗隆選手らを加えたいところだが、WBC組は春先からの疲労面も考慮して外れている。(DeNA・牧秀悟選手だけは例外選出)こうした厳しい条件の中でどれだけ楽しみな若手を発掘するかも、井端ジャパンに課せられた宿題となる。
春のWBC世界一の興奮は、ペナントレースで阪神の38年ぶり日本一の熱狂に変わり、最後は井端ジャパンのアジア制覇で終わりたい。その先には26年のWBCや、28年のロス五輪で野球復活も待っている。
派手さはなくても“仮免中”だろうと、井端新監督に託された使命は重い。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)