コラム 2023.11.16. 18:00

オリックス・宮城の涙に見る勝敗の分岐点【59年ぶりの関西シリーズを読み解く】

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 オリックスの捕手・森友哉が振り返る。

「あれは失投ではなかった」

 3勝3敗で迎えた日本シリーズの第7戦。59年ぶりの‘関西ダービー‘で沸いた最終決着は、わずか1球が勝負の明暗を分けた。

 阪神・青柳晃洋とオリックス・宮城大弥両先発で始まった試合は3回まで、共に無得点。息詰まるような空気が4回に一変する。

 阪神は一死後から森下翔太選手が左前打で出塁すると、続く大山祐輔選手が死球で好機を広げた。その直後に5番起用のシェルドン・ノイジー選手が左翼スタンドに会心の3ラン本塁打。続く5回も宮城をマウンドから引きずり下ろすと二番手・比嘉幹貴投手からも3連打を集めて大勢を決した。


 勝負を分けた1球とは、宮城がノイジーに投じた4球目である。

 簡単に2ストライクと追い込んだオリックスバッテリーは3球目に外角低めのフォークボールで空振りを誘うがボール。運命の4球目。森の要求は再び外角低めのチェンジアップだった。だが、肝心の勝負球は内角低めに入り、ノイジーはゴルフスイングのような形で左翼スタンドに叩き込んだ。

 何度も映像を見返したが、森のミットは地面すれすれに構えている。見逃せばボールの124キロのチェンジアップ。普通なら打っても左翼線のファールにしかなりそうにない一投を、ノイジーは右手首を返すことなくフェアゾーンに運んだ。日本シリーズのような大舞台では、過去にもわずか1球が試合の流れを決定づけるケースがよくある。試合後、宮城は敗戦の責を一人背負って泣いた。

 第5戦でも、勝ちゲームの終盤に救援した宇田川優希投手が逆転を許して涙を浮かべている。日本一を賭ける舞台はそれほど過酷なものだ。


いくつもの感情が混じった宮城の涙


 最終決着を前に、大方の予想はオリックス優位と見られていた。第6戦で大エースの山本由伸が1失点完投で逆王手。しかも最終戦には第2戦で無失点勝利の宮城が控えている。舞台は本拠地の京セラドーム。日本一連覇のムードが漂っていた。

 阪神にすれば、宮城は山本以上に厄介な存在だったはずだ。入団2年目から3年連続2ケタ勝利を記録する技巧派左腕。内外、高低に緩急を交えて投げ分ける投球は第2戦で6回、そして第7戦も3回まで猛虎打線をきりきり舞いさせるほどの安定感を見せていた。

 落とし穴があったとすれば、ノイジーの前の大山を0-2と簡単に追い込みながら死球を与えてしまったこと。このシリーズでは打率1割台の不振にあえいだ4番打者への失投が、絶対左腕に余計な力みを与え、ノイジーへのコントロールミスにつながったのだろう。

 宮城の涙には、いくつもの感情が混じっていた。

 もちろん、決着の大一番を任されながら大任を果たせなかった悔しさや申し訳なさが一番だが、それだけではない。制球力には絶対の自信を持っていたのに投げミスをしてしまった自分への不甲斐なさ。さらには兄貴分と慕う山本が今季限りでメジャー挑戦の道を選ぶことも知っていた。その花道を飾れなかった不甲斐なさもあったはずだ。


 激闘を終えたチームは、今、揺れている。山本の退団に加えて今季11勝を上げた山﨑福也投手もFA宣言して去就が注目されている。2人を併せた今季の成績は27勝11敗。つまり16の貯金がなくなることを意味する。宮城には山本に代わる大黒柱の期待がかけられることになる。

「うちは未熟な部分も多いが、まだまだ伸びしろのあるチーム」とシリーズ敗退後に中嶋聡監督は語った。山本らの抜けた穴には山下舜平太や東晃平らの有望株が控える。FA戦線で獲得に乗り出す広島・西川龍馬選手が加われば、打線に厚みも加わる。

 1950年の2リーグ分立以後、日本シリーズを連覇したチームはV9巨人や西武などわずかに4チームしかない。惜しくもシリーズ連覇を逃した中嶋オリックスの雪辱の旅が始まる。日本シリーズの悔しさはシリーズでしか、晴らせない。

 悔し涙にくれた宮城の更なる成長が待たれる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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