第49回:覇権奪回への道【投手編】
リーグ連覇から一転、リーグ5位に低迷してしまったヤクルト。その要因のひとつに挙げられるのが12球団ワーストの「3.95」という防御率に終わった先発投手陣だ。
3年ぶりの2ケタ勝利を達成した小川泰弘は、チームで唯一規定投球回に到達。2度の完封勝利を記録したサイスニードが7勝、先発・中継ぎと奮闘した小澤怜史は6勝をマークしたが、3月のWBCにも出場した高橋奎二が4勝9敗という成績に終わるなど、先発の軸と呼べる投手は少なかった。
来季、覇権奪回を目指すチームにとって、先発ローテの中心となる投手がひとりでも多く必要になるが、そのカギを握るかもしれないのが、ケガから復帰して再起を図る男たちだ。
来季プロ5年目を迎える奥川恭伸は今季、右肘痛からファームで実戦復帰を果たしたものの、その後は左足首の負傷もあって一軍登板を果たすことができなかった。
10月のフェニックス・リーグは上半身のコンディション不良で登板がなく帰京。戸田で調整を続け、11月10日に松山の秋季キャンプに合流した。「しっかり投げて来年につながるように」と、キャンプ中の練習試合に先発して3回無失点と結果を残した。
来季に向けて22歳は「まずはしっかり投げることですね。結果というより1年間通して投げ抜くこと、そこだけ考えている。それを目指して頑張りたいです」と、決意した。
2021年には9勝を挙げてリーグ優勝と日本一に貢献した。背番号「18」は、再び神宮のマウンドで輝きを放つべく来季を見据えている。
大舞台も経験した左腕の復活は
秋季キャンプには、左肘のコンディション不良から復帰を果たした左腕の山下輝も参加した。今季を振り返り「リハビリをずっとやってけっこう苦しかった」という24歳。それでも「フェニックスで球数増やしながら進んでいったので、だいぶ投げられるようになっています」と、手応えを口にした。
さらに「このキャンプのブルペンもみんなより球数は少ないかもしれないですけど、中1日、4勤2回はブルペンに入れた。非常に感じとしては悪くないと思っています」と、秋季キャンプでは1日60球程度の球数を投げ込んだ。
課題もある。「変化球自体はまとまっていると思っていて、一番は真っすぐですね。真っすぐはまだまだスピードは出ていないですし、フェニックス(のとき)よりは強さというのは少し出てきたかなとは思うんですけど、まだまだ去年とかに比べれば全然出ていないと思うので、ストレートはずっと課題ですね」
最速151キロを誇る左腕だが、現在は140キロ前半の球速。それでも「無理せず、少しずつ上がってくれればいいかな」と、焦らずじっくり状態を上げていく。
2022年の日本シリーズでは新人ながら第5戦に先発し、ワンシームを駆使してオリックス打線からゴロの山を築いた。山下は「ワンシームは自分の中では武器になっている。左にインコース、右に外、割とうまく扱えるようになっていますね。去年より今年の方が投げられています」と、自信を深めている。
「本当に(日本シリーズを)経験できたことは、すごく良かったなと思う。あそこで投げることを来年、再来年と目指していかなきゃいけないですし、そこにいくには先発ローテで投げ抜かなければいけない」と、気持ちは前向きだ。
「ケガと戦ってきたので、これをしたいということは全然やれていない。まずは投げることが来季の目標です。一軍で1年間投げたいですし、大卒で入ってきている以上はやらなければいけない」と決意をにじませた。
奥川も山下も1年間一軍で投げることが一番の目標だ。髙津臣吾監督も若きふたりの投手についてこう話す。
「今回のキャンプで投げられたというところは非常に良かったかもしれないですけど、キャンプで投げることが目標じゃないと思いますし、シーズンでしっかりと投げられる体でいてくれることを期待しています」
30歳右腕も復活へ向けて前を向く
埼玉の戸田球場で行われた残留組の練習に参加していたのが、上半身のコンディション不良の影響で今季一軍登板がなかった30歳の原樹理だ。
同じく苦しいリハビリ期間を過ごしていた山下も、先輩の原から「いろいろアドバイスもいただいていた。年は少し離れているんですけど、何かこう身近な、近いような存在という先輩のイメージ。すごく親しく話しかけてくれますし、話しやすい」と、その人柄を話してくれた。
原自身は今季について「本当に何もできなかった。全然イメージと違った。もっと早く良い感じになるかなと思ったんですけど、思ったより甘くなかった」と振り返り、来季へ向けて「一発目でしっかり投げられるように」と、前を向いている。
ストレートと変化球のコンビネーションが持ち味の原は来季、プロ9年目を迎える。昨季はキャリアハイの8勝を挙げてリーグ連覇に貢献しただけに、右腕の復活が待たれる。
「まずはしっかり真っすぐを投げて強い球を投げられるようになったら、(変化球にも)しっかり取り組まないと。真っすぐでどんどん押していくタイプではない。しっかり真っすぐを投げて、変化球も自分の思い通りに投げられるように。(今年は)スライダー、シュートもいまいちだったので。そこは絶対条件になると思います」
並々ならぬ決意をにじませ、再起を図る奥川、山下、原は、3人ともドラフト1位でヤクルトに入団した。彼らが本来の力を十分に発揮できれば、必然的に投手力のアップにつながる。来季は3人の復活劇に注目だ。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)