白球つれづれ2023・第48回
案の定と言うべきか。中日の契約更改が荒れている。
27日に行われた契約交渉では、柳裕也投手が球団の増額提示にも保留。
これに先立つ23日には左のエース・小笠原慎之助投手も保留している。相次ぐ主力投手の保留は、この球団ならではの苦悩が浮き彫りになった形だ。
“貧竜”の犠牲者として、注目されていたのが柳の交渉だった。
今季成績は4勝11敗と大きく負け越し。とても胸を張れる数字ではないが、中身を精査していくと違った形が見えて来る。
防御率2.44はリーグ6位。すぐ上を行く(防御率2.39)の阪神・伊藤将司投手が10勝5敗の好成績でチームの日本一に貢献しているのだから、その開きはあまりに大きい。
好投しても白星にありつけない。柳の悲劇はシーズンを通して繰り返された。
シーズン終了前に登板した10試合では、全て援護点は1点以下。本拠地・バンテリンドームでは今季勝ち星なしの6連敗。
中でも象徴的な試合は8月13日に行われた広島戦(バンテリン)だ。
9回までノーヒットに抑える快投も、味方打線に援護なく降板、ゲームは延長戦の末にサヨナラ勝ちしたが、“幻のノーヒットノーラン”の話題だけが残った。
柳以外にも、投手陣のイライラがつのる試合は再三にわたって見られた。
元凶は打てない打線にあることは明白
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勝 負 防御率
小笠原 7-12 3.59
髙橋宏斗 7-11 2.53
涌井秀章 5-13 3.97
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これが主な先発投手の成績だが、柳を含めた全員が2ケタ黒星を喫しているが、内容だけを見ればそこまで悪くない。つまり元凶は打てない打線にあることは明白だ。
今季の零敗は25試合を数え、これに1得点だけのゲームが23ある。チーム82敗のうち、半分以上が1点以下では最下位も納得、投手陣にとっては不満も、フラストレーションも貯まる1年間だったに違いない。
契約交渉に臨む球団でも、その辺りの事情は考慮している。柳は今季年俸1億800万円(推定、以下同じ)から、小笠原も同6600万円から増額提示を受けているが、ハンコを押すことはなかった。
「球団が僕と言う投手をどう思っているのか知りたかった。(今後)球団の考えと照らし合わせてみたい」と柳は保留の理由を語ったが、こんな状態が何年も続けばたまったものではない。
そんなチームの現状を的確に指摘したのが20年の沢村賞男・大野雄大投手である。
9日に行われた交渉では3年契約もあり、3億円プラス出来高5000万円で一発サインしたが、組織としての在り方に熱弁をふるった。
「チームとしてガラッと変わらないと勝てない。選手が一番やらないといけないが、球団もそう、監督、コーチも。みんな変わらないとこのまま行っても勝てない」
さらに首脳陣が明確な指示を出して、選手がそれに応える重要性を指摘。阪神の岡田彰布監督が取り入れた四球査定を例に出して「監督が(方向性を)出して、選手が実行している。それが査定にもつながっている」と変革の必要性を語っている。一部には「立浪監督批判?」と言う声も出たが、投手陣のみならず、チーム内に渦巻く澱んだ空気をベテランが代弁したものと解釈して間違いないだろう。
投手成績はリーグ2位も、打撃ではリーグワースト。「投高打低」の現状を打破しようと、球団もこのオフには補強策に力を入れている。
すでに巨人から中島宏之、ソフトバンクから上林誠知ら4選手の獲得を発表しているが、いずれも戦力外通告を受けた選手ばかり。この先は巨人を退団した中田翔選手の獲得に乗り出しているがその成否が最大のポイント。長打力不足の現状では喉から手の出るほど欲しい選手には違いない。さらに新外国人選手で得点力アップを目指したい。
「自分も変わるから、選手も変わって欲しい」と立浪監督は語っている。
2年連続最下位はチームワースト。後のない立浪竜にとって、大変革がなければ浮上もない。まずは力のある投手陣が気持ち良くマウンドに向かえられる様な「解体的出直し」が求められる。
柳の悲劇を無駄にしてはならない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)