白球つれづれ2023・第50回
大谷翔平選手のドジャース移籍が日本時間10日に決まった。契約金は10年総額7億ドル、日本円に換算すると実に1015億円。あまりの巨額に日本ばかりか、全米中でもこの話題で持ち切りだ。
それより2日前の8日にはNPBの現役ドラフトが行われた。
昨年に次いで2度目の開催になるが、こちらは出場機会の恵まれない選手たちに再チャレンジの場を提供するのが目的。昨年の同会議ではソフトバンクから阪神に移籍した大竹耕太郎投手が12勝(2敗)の好成績をあげて日本一に貢献。DeNAから中日に移った細川成也選手も24本塁打78打点の活躍で主力打者に成長した。
大竹はソフトバンク時代、戦力層の厚さとスピード不足で一軍から遠ざかっていたが、制球重視の阪神に環境が変わったことで花開いた。
DeNA時代から非凡な打撃を評価されていた細川も、戦力の薄い中日で和田一浩打撃コーチの指導を受けることによって大変身を遂げた。
一方で新天地に活路を求めた12選手の中でヤクルト・成田翔、楽天・正隨優弥選手らは一年限りで戦力外通告を受けている。勝負の世界は天国と地獄が隣り合わせで同居している。
認知度の増した今年の現役ドラフトでは元ドラフト1位指名を受けた3選手の移籍が決まった。
ロッテからDeNAの佐々木千隼、中日からオリックスの鈴木博志、阪神から巨人の馬場皐輔。いずれも投手で、鈴木と馬場は17年のドラ1組だ。
山本由伸投手の抜けたオリックス、今永昇太投手が抜け、強力助っ人、トレバー・バウアーも自由契約になったDeNAの両球団は共に先発投手陣の再構築が必要で、中継ぎ投手の強化を狙う巨人にとっても馬場はうってつけの人材。他にも愛斗(西武→ロッテ)や北村拓己(巨人→ヤクルト)らも、レギュラー一歩手前まで行った選手たちだ。新天地でどんな活躍を見せるのか、楽しみだ。
現役ドラフト12月の開催時期と戦力外通告との関係
今ドラフトで移籍の決まった12選手から各球団のターゲットも見えて来る。
年俸では、下は560万円の水谷瞬選手(ソフトバンク→日本ハム)から最上位3500万円の馬場までで、平均すると約1700万円。実働年数は5年から7年までの選手が8人。つまり、入団から5~6年経って伸び悩んでいる。もしくはチーム事情で一線級までには届かない。したがって年俸も上がらない選手たちが対象となるケースが多いことがわかる。
こんな現役ドラフトに対して、選手を守る立場にいる日本プロ野球選手会の森忠仁事務局長は「環境を変えてあげられれば、と言う(球団側の)気持ちが出ているのかな。制度としていい方向に向かっていると思う」と一定の評価はするものの「球団側が選手を選ぶのではのなく、(出場試合数や年齢などの条件で)自動的にリストアップされて欲しい」と注文も忘れない。
どの程度の選手を、どの時期にドラフトにかけるのか? 球団側でも手探りの中で始まった新制度。現状では非公開で行われ、2巡目の指名も可能としているが2年ともに実現していない。さらに問題を複雑化させているのが12月の開催時期と戦力外通告との関係だ。
今オフにソフトバンクから戦力外通告を受け、その後、中日に移籍した上林誠知選手を例にとってみる。プロ10年目の28歳。2019年には打率.270、本塁打22本、打点も62を記録、レギュラーの座を掴んだホープだった。その後はアキレス腱断裂など故障に苦しんだが、いきなり戦力外は驚いた。
上林の今季年俸は3750万円、実績と年齢からも現役ドラフトにかかってもおかしくない。さらに現役ドラフトがもっと早い時期に開催されれば戦力外でユニホームを脱ぐ危機を回避できるかもしれない。阪神を戦力外となり、来季からイースタンリーグに加盟するオイシックス・新潟への入団が決まった高山俊選手なども同様だろう。
各球団はシーズン終了前に来季のチーム構想を立てて戦力外選手を決める。そのうえで新人選手を獲得するドラフト会議が行われ、思惑通りにいかなかった部分を現役ドラフトやトレードで埋めていく。しかし、これでは森事務局長が指摘する通り、球団が主導する「ご都合主義」と指摘されてもおかしくない。
近年は育成選手として大量に獲得するが、2~3年で“クビ”も珍しくない。
FAで大金を手にする選手がいる一方で、使い捨ての危機も増えている。そのはざまに位置するのが現役ドラフトで指名される選手たちだ。
改善の余地はまだまだ残されている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)