「一番しんどい1年だった」
プロ14年目に待っていたのは大きな試練だった。
「結果の世界なんで、自分自身仕方ないと思ってるし。来年見返して欲しいということは(球団から)言われました」
11月24日に球団事務所で契約更改を終えたタイガースの秋山拓巳の表情は終始、険しかった。減額制限を超える減俸に対してではない。
今季、伊藤将司の故障で開幕ローテーションに滑り込みながらも1軍では2登板に終わり、15年以来8年ぶりの未勝利。
4月1日のベイスターズ戦で5回5失点でKOされ2軍に降格すると、自身に替わって先発に抜てきされたのが村上頌樹だった。3年目右腕のその後の活躍と躍進は言うまでもない。何より、チームは18年ぶりのリーグ優勝を果たし、38年ぶりの日本一まで到達。その輪に過去3度二桁勝利をマークしてきた秋山は加われなかった。
「14年目が終わりましたけど、一番しんどい1年だったかなと。上(1軍)は1年間すごく強かったし、日本一にもなって。その中に加われなかったこともあるし、自分自身、なかなか調子上がらなかった。試合を見るのも辛かった」
18年にメスを入れた右膝の状態が最後まで上昇してこなかった。“土台”に不安を抱えたまま腕を振り、ボールに力を伝えることに苦心。
ファームでは最多勝を獲得するなど年間通じてローテーションを守ったものの、層の厚い1軍先発陣に割って入るほどのアピールはできなかった。
「負けたまま終わらないようにしたい」
11月23日に兵庫、大阪で開催された優勝パレード。当日、大阪で美容院に行っていた右腕はタイガースファンの人混みに紛れながら街を歩いたそうだ。
「あの人混みの中を一緒に歩いてました。ファンの方に紛れて歩いていて、何してるんやろうなと思いました」
主力の1人としてそこにいるはずの未来を、屈辱の記憶として上書きするしかできなかった。ただ、これも現実。プロで10年以上もまれてきた32歳は「結果」で来年以降の景色が激変することも知っている。
「昨年、一昨年と若手にはまだ負けないとか大口を叩いていたと思うんですけど、今年に関しては完敗だと思うし…」。唇をかむと、こう続けた。「続けるのは難しい世界なんで。まだまだ自分の持ち味を出せれば、また戦力としてやれるんじゃないかと思っています」
自分を信じる秋山は、決して腐ってはいない。今オフは走り込み、トレーニングに重点を置き「動ける体」を取り戻すため優勝モードで多忙なオフを過ごす主力とは対照的に連日、鳴尾浜球場で汗を流している。
「負けたまま終わらないようにしたい」
その一心で背水の2025年シーズンに臨む。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)