第50回:覇権奪回への道【野手編】
ヤクルトは楽天を戦力外となった31歳の西川遥輝を獲得して、外野手を補強した。過去に4度の盗塁王を獲得するなど実績のある西川の加入により、外野の定位置を巡る争いは過熱しそうだ。
来季、就任5年目を迎える髙津臣吾監督は、11月に行われた松山秋季キャンプの最終日、若手選手に対して「もっともっと、というところが足りなかったような気がしますね」と口にしたあと、こう話した。
「正直、西川選手のレベルに達しているのかな、という風には思いますけどね。そこの差って、なかなか今回のキャンプで簡単ではないですけどね、埋まってはないんじゃないかなと思いますね。一、二軍の壁だったり、レギュラーの壁だったり…」
戦力の底上げという点で、現状に満足していない様子だった指揮官。それもV奪回への強い気持ちの表れだろう。
外野は連覇の原動力となった塩見泰隆が、今季は下半身のコンディション不良などで51試合の出場に終わった。塩見は「もう一回初心にかえってレギュラーを取るぐらいのイメージでやっていきたい」と、気持ちをあらたにしている。
中堅には塩見、右翼にはドミンゴ・サンタナが就くことを考えると、残るは左翼のポジションとなる。この一角を誰がつかみ取るか。西川や青木宣親、山崎晃大朗と、実績のある選手たちに加え、若手の丸山和郁、濱田太貴らが競うことになるだろう。
ライバルがひしめき合う中、今季チームトップの15盗塁をマークした並木秀尊は、82試合に出場して打率.242、1本塁打の成績を上げ、塩見の離脱中にはリードオフマンの役割も担った。俊足が持ち味の24歳は、来季はさらなる飛躍が期待されている。
打力向上を目指す俊足外野手
並木は「バットをうまくしならせて(ムチのように)使えるように」と、打力向上へ向けて意欲を燃やしている。
バットのヘッドの重みを利用することで「(飛距離が伸びるなど)打球の感じも変わってきた」と、秋季キャンプで手応えを得た。
パワーを生み出すため筋量を増やす取り組みも行い、シーズン中は71キロ前後だった体重を73~74キロまで増やした。すべてはレギュラーをつかみ取るため。並木はこう話す。
「盗塁の数にこだわっていきたい。試合に出続ければ盗塁王のチャンスも増えてくると思う。守備、走塁で例年やってきたんですけど、それをプラスアルファでもっと打撃を良くしないと今のままではダメだと思う。この冬で体づくりをして、1年間戦える体をつくって、2月のキャンプに最初からアピールできるようにやっていく」
さらに「自分の持ち味であるセーフティー(バント)であったり、今季はあまり四球を選べなかったんですけど、(ボールの)見極めやそういうところもしっかりやって、任せられるように少しずつでも近づいていきたい」と、自分の力を最大限に発揮してアピールする構えだ。
並木は塩見と自らを比較し「及ばないところだらけだと思う。追いつき追い越せるにはまだまだ」と話しながらも、気持ちは決して負けていない。「バッティングでは出塁率で.350はほしいと思います」と意気込みを語った。
台湾ウインターリーグでは8試合で7盗塁をマーク。並木が上位で打線を引っ張っていければ、チームの得点力アップにつながるはずだ。
プロ初安打が満塁弾…右の主軸候補
内野手に目を向けると、来季も主将を任せられる山田哲人は来年の7月で32歳を迎える。今季はコンディション不良に悩まされ、打率は.231と苦しんだ。
来季の山田の復活はもちろんだが、同時に若手の突き上げがなければチームとしての浮上は難しくなるだろう。
その山田と二遊間を組む長岡秀樹は昨季、遊撃でゴールデングラブ賞を獲得するなどブレイクを果たしたが、今季は135試合の出場で打率.227と不振にあえぎ、後半は同期の武岡龍世に遊撃の定位置を譲ることもあった。
今季自己最多の84試合に出場した武岡が、二塁でも山田を脅かす存在になれれば、自ずとチーム力も上がるだろう。若手では背番号を「71」から「00」に変更した赤羽由紘、ソフトバンクから移籍の増田珠の活躍も期待される。
そしてもうひとり、ルーキーでプロ安打を満塁弾で飾った北村恵吾には、将来の右の主軸としての期待が高まる。
オフは体力、筋力のフィジカル強化に重点を置き「しっかり取り組めた」と話した23歳。ファームでは10本塁打を放ったが、打撃面で「逆方向に長打、ホームランを打てるようなパワー、技術をもっと身につけたいと思っている」とし、走塁においては「少しでも先の塁に進めるように、1点に絡めるように」と、課題を挙げた。
守備では一塁、二塁、三塁のポジションを守り「試合に出られるならポジションは問わず、チャンスをもらえるところでアピールしていきたい」と話す北村。
「少しでも一軍に長くいられるように、戦力になれるようにするためにも、バッティング、守備、すべての面においてアピールしていかないといけない立場なのはわかっている。オフ期間を大切にしていかなくてはいけないなと思っています」と、力を込める。
台湾ウインターリーグに向けて「結果をもちろん出すという面においても、そこはこだわっていきたい」と臨み、18試合で打率.340、2本塁打、10打点と結果を残した。
巨人から現役ドラフトを経て加入してきた“同姓”の北村拓己にも負けるわけにはいかない。持ち前の長打力で、来季は一軍の舞台で輝きを放つ。
チームは今季、球団初のリーグ3連覇に挑みながら、5位という結果に終わった。打線は4番の村上宗隆を軸に外国人選手の奮闘もあったが、主力の故障に悩まされ、指揮官が語ったようにレギュラーと控えの差も痛感したシーズンとなった。
期待の若手がさらに力をつけ、巻き返しへ向けたピースとなれるか。浮上のカギは未来を担うツバメたちが握っている。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)