キャリア最悪と言ってもいいほどの不振に陥る
エースははっきりと言った。
「来年は野球人生がかかったような1年になると思うので」
タイガースの青柳晃洋が、危機感のにじむ言葉を口にしたのは21日に球団事務所で行われた契約更改の場だった。
「タイガースは良い選手多いですし、今年は昨年の実績である程度投げさせてもらいましたけど、来年はそうはいかないと思う」
昨年まで2年連続で13勝をマークし、22年シーズンは最多勝、最優秀防御率、最高勝率の投手3冠に輝いた右腕がチームが今季は苦しんだ。
昨年はコロナ感染で断念していた開幕投手に自身初めて抜てきされ白星を挙げる快調なスタートも、その後はキャリア最悪と言っていい不振に陥った。
「1年間、納得いくような投球ができなかった」
5月19日のカープ戦で5回7失点KOされると、実に17年以来、6年ぶりとなる不調による2軍降格も味わった。
シーズン後半に再昇格を果たして4連勝を記録するなど意地は見せたものの、チームがリーグ優勝を果たした中で不完全燃焼の思いは強かった。
エースの苦闘とは対照的に、1月に静岡で合同自主トレを行った後輩の村上頌樹が青柳の助言も生かして大ブレーク。
才木浩人や西純矢など歳下の選手たちも台頭してきている。リーグ屈指の層を誇る投手陣にあって2年連続で精彩を欠くことの意味を青柳は誰よりも分かっている。
「野球人生」というフレーズも、自分自身の中では決して大げさな表現ではなかったはずだ。
苦難の1年の最後で見えた“手応え”
手応えもある。終始悔しさを噛みしめたこの日の会見で、特別な試合として挙げたのが日本シリーズ第7戦。3勝3敗で迎えた大一番での先発マウンドは想像を絶する緊張感に襲われた。
「野球を始めて寝れない日はなかったですけど、始めて寝れなかった。野球始めて1番の緊張感があった日」
そんな重圧をはねのけて5回途中無失点と大役を果たして得た経験は来季につながるものだった。
「何も考えず、打者と勝負することだけを考えたらある程度、良いピッチングができたので。自分にできることは限られる。それ以上求めないっていうのは来年も思いながら投げることかなと」
試行錯誤した苦難の1年の最後に待っていたしびれる舞台でようやく光が見えた。
11日には節目の30歳を迎えた背番号17。真価の問われる9年目へ、今オフはキャリア最速始動で、ここ数年のフル稼働で狭まったという身体の可動域を広げることや、柔軟性の向上へハードなトレーニングを積んでいる。
「僕は毎年キャリアハイを目指してるんで。そこが目標。来年これ(今年の投球内容)が続いてしまったらこのまま落ちる一方だと思うので、ここでもうひと踏ん張り。また上がっていけるように、来年しっかり結果を出して(チームの)連覇に向けてできたらいい」
エースの看板に輝きを取り戻す1年にする。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)