コラム 2024.02.01. 06:34

「2軍だけのプロ野球チーム」が昭和20年代にもあった! 幻の球団「山陽クラウンズ」とは…!?

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今季からイースタン・リーグに新規参入したオイシックス新潟アルビレックスBC (C)Kyodo News

NPB史上初の2軍だけのチームが存在した 


 今季から新潟市に本拠を置くオイシックス新潟アルビレックス、静岡市に本拠を置くハヤテ223(ふじさん)の2チームが2軍に参入する。

 オイシックス新潟はイースタン、ハヤテ223はウエスタンに所属し、イースタン8チーム、ウエスタン6チームの計14チームで2軍公式戦が行われる。

 実は、両チームより70年以上も前の1950年代に山陽電気鉄道を親会社(球団経営は山陽興業)とする「山陽クラウンズ」というNPB史上初の2軍だけのチームが存在した。


 正式名称「神戸クラブ山陽野球部」が結成されたのは、2リーグ制がスタートした1950年。同年5月14日付オールスポーツ(現・日刊スポーツ大阪)に「マイナーチーム山陽野球誕生」の見出しで、同22日に明石球場で入団テストを行い、17歳から23歳までの選手を公募する旨が紹介されている。入団テストは5月22日に明石球場で行われ、初代監督になった早大OBの村井竹之助がコーチとして立ち会っている。

 同紙によれば、球団設立の趣旨は「あくまでも選手の育成を目的として青少年より希望者を募り正しい野球技術、プロ野球人としての教養など円満なる常識をグラウンド合宿中の日常生活に織り込んで、いままでのような野球界のへい害を除去し明朗なスポーツマンライクな野球界の実現を目指している」というもの。

 当時のプロ野球界は、国鉄、大阪(阪神)、南海、西鉄、阪急、東急、近鉄と、セパ15球団中7球団までが鉄道関連会社であり、山陽もこれらの球団に続いて、マイナーチームとして参入をはたした形になる。

 だが、設立趣旨にもあるように、他球団のように大金をはたいて有力選手を引き抜いたりせず、無名の若手選手に野球技術だけではなく、教養も身に着けさせ、優れたプロ野球人を育成するという崇高な理想を掲げていた。

 当初は前記の入団テストの合格者らに2軍を持たない西日本の4選手を加えた寄せ集めのチームだった(翌51年には2軍が解散した大洋の選手も加入)。後のエース・浮田逸郎も同年、佐世保北高から練習生として西日本に入団したが、2軍がなかったため、山陽の一員になった。

 設立時の内藤総監督(※名前不明)が8月に死去したあと、早大OBの加藤吉兵衛が2代目総監督に就任。クラウンズのニックネームが生まれたのもこの頃だった。


 その後、阪急と南海の2軍を明石球場に招き、初の対外試合となる「山陽野球団結成記念プロ野球2軍リーグ戦」が開催された。さらに11月22日から3日間、大阪球場で開催された「第1回プロ野球マイナー選手権」にも出場したが、1回戦で大洋に2対6と完敗。実際のスコア以上に実力差が感じられたようで、11月25日付のスポーツニッポン大阪は「素人揃いで基礎も出来ていない。子供が大人の真似をしたがっているような感じである。(中略)一から出直してくるべきである」と酷評している。

 翌51年、村井監督に替わって早大OBの近藤金光監督が就任。「野球雲第8号」(啓文社書房)に掲載された野球史ライター・松井正氏の「山陽クラウンズを追って 浮田逸郎元エースの証言」によれば、西日本のチーム解散後、郷里・佐世保で市役所体育課に就職したに浮田も「今一度硬式野球で自らの目標を達成すべく」、加藤総監督にお願いして山陽に再入団させてもらったという。


経営難により2年半で解散 


 ほとんど試合をする機会がないまま1年が過ぎたが、52年から1軍戦の前座試合として行われる2軍戦に参戦。4月15日から現在のウエスタンの前身にあたる関西ファームリーグが誕生すると、山陽も参加し、リーグ戦23試合を行っている。

 開幕2戦目となった4月17日の南海戦で、3本塁打のアーチ攻勢で15対5と大勝し、リーグ戦初勝利。2回途中から好リリーフの浮田は、本塁打も放ち、投打にわたる活躍だった。

 だが、ここから1分けを挟んで11連敗と長いトンネルに入る。3連敗で迎えた5月8日の阪神戦は、5対3とリードした9回裏に3安打を集中され、引き分けに持ち込まれるなど、悪い流れをなかなか変えられない。

「山陽暴れる」の見出し(オールスポーツ)が躍ったのが、6月18日の阪神戦だった。10安打に12四死球と相手投手陣の自滅もあって11対3と快勝し、ようやく連敗を止めた山陽は、阪急、松竹にも勝って3連勝。6月28日の阪急戦は2対3と逆転サヨナラ負けしたものの、チームは上向き調子だった。

 そんななか、7月5日から和歌山で開催された「和歌山県知事杯争奪2軍戦」に出場した山陽は、1回戦で浮田が阪神を1対0と完封。準決勝でも西鉄に11対6と打ち勝ち、決勝進出をはたした。準決勝と同日に行われた決勝では、選手層の薄さを露呈して、名古屋に1対10と大敗したが、球団史において最も輝かしい準優勝を実現した。

 そして、7月26日から再開されたリーグ戦でも、8月28日の名古屋戦で浮田が3対1で完投勝利を挙げるなど、4勝1敗と元気なところを見せた。だが、皮肉にもチームは経営難から同年10月に解散。NPB史上初の2軍だけのチームはわずか2年半で終わりを告げた。

 1950年代と違って2軍の注目度も高い今、新規参入の両チームが既存のチームを相手にどこまで健闘するか。今季の2軍戦は面白くなりそうだ。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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