白球つれづれ2024・第7回
12球団のトップを切って11日、日本ハム対楽天の対外試合が沖縄・名護で行われた。結果は4対2で日本ハムが逆転勝ち。この時点での結果はさほど重要でないが、2年連続最下位からの巻き返しを誓う新庄ハムにとっては幸先のいいスタートに違いない。
指揮官として3度目のキャンプ。就任1年目は「優勝なんか目指しません」と育成に重点を置いた。高級外車で球場入り。開幕戦では札幌ドームの天井から舞い降りるパフォーマンスも見せた。“新庄劇場”はこの男の独壇場だった。
ホームグラウンドをエスコンフィールドに移転して迎えた2年目は、一転して「優勝しか目指さない」と啖呵を切って臨んだが、60勝82敗1分けで再び最下位に沈む。それでも新球場人気も手伝って観客動員(188万2573人)は飛躍的に伸びて前年比47.8%は12球団トップの伸び率を記録した。
個人的には1年目に松本剛選手が首位打者を獲得、昨年は万波中正選手が24本塁打を放つなど大ブレークを果たすが、指揮官としては勲章となるべきものを探すのは難しい。つまり、話題性や新球場人気はあっても、それが落ち着いた今季は監督としての力量を問われる背水の陣と言っていい。
昨年9月に行われた留任会見で新庄監督は「この世界は結果がすべて。来年も同じような成績であればユニホームを脱ぐ覚悟」と語り、さらにこうも付け加えた。「新庄剛志はこのまま終わらない。奇跡を起こす人間だと言うことを見せつけたい」。
球団側でもこれを機に組織の大改編を行っている。前監督で侍ジャパンを世界一に押し上げた栗山英樹氏をチーム運営からGM職まで権限を持つCBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)に。さらに昨年までGMを務めた稲葉篤紀氏を二軍監督に配置転換。すべてはオール日本ハムで新庄監督をサポートするためだが、反面、何がが起こった時には速やかにシフトチェンジ出来る狙いも隠されているはずだ。
新庄野球の過去2年を振り返ってみると、毎試合のように打順を入れ替える「猫の目オーダー」と「奇襲」が思い出される。
各個人にそれだけの実力がないから日替わり打順としていた側面もあるのだろうが、ソフトバンクにFA移籍していった近藤健介選手の様な不動のレギュラーでも、自分の居場所が分からない状態では、無用な混乱を招いた側面も否めない。
ツーストライク後からスクイズを命じるような「奇襲」も、はまれば鮮やかだが、相手球団も研究して来ればそう簡単には決まらない。奇襲とはオーソドックスな戦法があって初めて生きて来る。
リーグ最下位のチーム打率を改善できるか
勝負の3年目。もう派手なパフォーマンスや「イケイケの野球」だけでは上位浮上は難しい。戦力的に見れば昨季のチーム防御率3.08はリーグ3位だから大きな引けは取らない。エースの上沢直之投手のメジャー流失は痛いが、そのマイナス分はオリックスから山﨑福也投手を獲得したことで埋められる。
問題はリーグ最下位のチーム打率(.231)に泣いた打線のテコ入れだ。
「万波以外はすべて白紙」とチーム内競争を煽る指揮官にとって注目ポイントは3つ。まず。1番・中堅に予定する五十幡 亮汰選手が故障せずにフルシーズンを働けるか。球界トップクラスの俊足で塁上をかき回せば打線全体に勢いは増す。
次いで扇の要である捕手をある程度固定化できるか。今キャンプではドラフト2位で入団した進藤勇也選手(上武大)が強肩と強打で猛アピール。大学ジャパンのナンバーワン捕手だけに、新庄監督も「開幕スタメン? もちろんあり得ますよ」と期待は大きい。五十幡と進藤が固定化できれば守りの基本であるセンターラインが飛躍的に良くなるはずだ。
そして、最後のピースは新外国人である。中でもメジャー108発の長打を誇るフランミル・レイエス外野手の打棒に期待が集まる。今月6日のフリー打撃ではセンターバックスクリーン越えの推定160メートル特大弾を放ち度肝を抜いた。この規格外れの助っ人が4番に座って40本近いアーチを量産すれば得点力も飛躍的に上がるはずだ。
新庄監督の言動だけが目立つのはチームにとっても不幸な事。チームの中心線は動かさずに、それ以外の部分は激しいチーム内競争を煽ればいい。
地に足のついた用兵と采配。「奇跡を呼ぶ男」の真価が今年こそ問われている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)