得点圏に走者を置いて4番打者に打順が回ってきた。ファンにとっては願ってもない展開だが、そんな矢先に監督がベンチを出て、まさかの代打を告げる。一体何が起きたのか? 「そのとき、4番に代打が告げられた」珍場面をプレイバックしてみよう。
まずはメジャー移籍の前年、2000年に開幕からオリックスの4番を務めたイチローにご登場願おう。
7月9日の近鉄戦、5連勝中のオリックスは、この日も7回を終わって10‐3と大きくリード。8回にも一死一・三塁のチャンスをつくり、4番・イチローに打順が回ってきた。
ところが直後、仰木彬監督がベンチを出て、なんと、代打・三輪隆を告げるではないか。スタンドのファンが「なぜ?」と目を白黒させたのは、言うまでもない。
実は、この日のイチローは、5回の3打席目に前川勝彦から背中に死球を受けたばかりでなく、7回の4打席目にも前川の1ストライクからの2球目が頭上を襲い、ヒヤリとさせられた。
2打席連続の受難に怒りを堪えきれなくなったイチローは、バックネットに当たって跳ね返ってきたボールに「咄嗟に出たよ」という回し蹴りを食らわせたが、その後、中前安打を放っていた。
だが、8回に5打席目が回ってくると、仰木監督は「2打席続けて死球と頭上に来た。危険を感じて変えたんだ」と、“大事な4番打者”を案じて、代打を送ったという次第。試合も大勢が決まっており、無理に出場させる必要もなかった。
イチローも「しょうがないね。(前川は)コントロールのある投手じゃないから、余計怖い」と納得ずくで交代。試合もそのままオリックスが10-3と大勝し、6連勝となった。
ちなみに、イチローは3番を打っていた1998年9月13日のロッテ戦でも、1点を追う7回一死二塁のチャンスに、代打、トロイ・ニールを送られている。
6回の攻撃中、ベンチ裏で打撃フォームをチェックしていたニールのバットが手を離れ、近くにいたイチローの頭部を直撃したことが原因だった。「頭がガンガンする。カッコ悪いね」と痛みを堪えて7回の守備に就いたイチローだったが、額が腫れ上がっていたため、大事をとって、その裏の打席に立つことなく、交代した。
開幕から不動の4番を務めてきたのに、深刻な打撃不振から代打を送られたのが、日本ハム時代の中田翔だ。
2016年6月27日の西武戦、3-7とリードされた日本ハムは、7回に2点を返し、3番・陽岱綱が敬遠気味に歩かされたあと、二死一・二塁で4番・中田に打順が回ってきた。
だが、中田はここまで10試合で38打数4安打と不振を極め、この日も岸孝之の前に3打数無安打1三振といいところがなかった。
これまで辛抱して使いつづけてきた栗山英樹監督もついに意を決し、終盤の勝負どころで、勝負強い矢野謙次を代打に送った。
交代の理由を「腰の張り。あの回に報告があった」と説明した指揮官だったが、中田自身も「今の結果からしたら、出る資格がない」と言うほど、調子が悪かったのも事実だった。
そして、「4番に代打」の策がズバリ的中する。矢野が四球を選んで満塁とチャンスを広げたあと、田中賢介が左前に同点2点タイムリーを放ち、さらにブランドン・レアードの中前タイムリーで8-7と勝ち越し。鮮やかな逆転勝利を収めた。
「(代打は)何とも思わない。チームがすごい勝ち方をして良かった」とコメントした中田だが、内心は忸怩たる思いだったはずだ。翌28日の西武戦では4番を陽に譲り、連続試合出場も「361」でストップした。
だが、この試練をバネに、2試合欠場後、7月1日のソフトバンク戦から4番復帰をはたした中田は、8月末に3試合連続本塁打を記録するなど、次第に復調。最終的に打率.250、25本塁打、110打点で2度目の打点王に輝くとともに、4年ぶりのリーグ優勝と10年ぶりの日本一に貢献した。
4番を打つ助っ人に代打が送られる珍場面が見られたのは、2019年8月18日の巨人VS阪神だ。
東京ドームの3連戦で2連敗中の阪神は、この日も5回まで0-4の劣勢だった。
だが、6回に木浪聖也右前安打、福留孝介四球で、一死一・二塁と遅まきながら反撃の狼煙を上げる。このチャンスに打席に入るのは、4番、ジェフリー・マルテのはずだった。
ところが、矢野耀大監督は、代打にヤンハービス・ソラーテを送った。
実は、マルテは4回の打席で空振りした際に、「左胸が吊った」と訴えため、緊急交代となったのだが、トレーナーによれば、治療を施す必要もない程度の軽症だったとか。矢野監督も「いや、なんかちょっと胸が痛い、痛いっていうか、なんか……。うん、それで代えた。振れる感じがないっていう感じやったから」と苦しい説明に終始した。
理由はどうあれ、4番で先発出場した助っ人に代打が送られるのは、球団史上初の珍事だった。
だが、ソラーテはあっけなく二ゴロに倒れ、助っ人の代打に助っ人という苦肉の策も実らず……。この日も阪神は3-6で敗れ、伝統の一戦でシーズン4度目の3連戦3連敗を喫する羽目になった。
ちなみに同日は、日本ハムVS楽天でも、延長10回無死一・二塁の一打サヨナラのチャンスに4番・清宮幸太郎に代打・谷内亮太が送られ、1日に「4番に代打」の珍事が2つも起きている。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)
「4番、イチロー」にまさかの代打
まずはメジャー移籍の前年、2000年に開幕からオリックスの4番を務めたイチローにご登場願おう。
7月9日の近鉄戦、5連勝中のオリックスは、この日も7回を終わって10‐3と大きくリード。8回にも一死一・三塁のチャンスをつくり、4番・イチローに打順が回ってきた。
ところが直後、仰木彬監督がベンチを出て、なんと、代打・三輪隆を告げるではないか。スタンドのファンが「なぜ?」と目を白黒させたのは、言うまでもない。
実は、この日のイチローは、5回の3打席目に前川勝彦から背中に死球を受けたばかりでなく、7回の4打席目にも前川の1ストライクからの2球目が頭上を襲い、ヒヤリとさせられた。
2打席連続の受難に怒りを堪えきれなくなったイチローは、バックネットに当たって跳ね返ってきたボールに「咄嗟に出たよ」という回し蹴りを食らわせたが、その後、中前安打を放っていた。
だが、8回に5打席目が回ってくると、仰木監督は「2打席続けて死球と頭上に来た。危険を感じて変えたんだ」と、“大事な4番打者”を案じて、代打を送ったという次第。試合も大勢が決まっており、無理に出場させる必要もなかった。
イチローも「しょうがないね。(前川は)コントロールのある投手じゃないから、余計怖い」と納得ずくで交代。試合もそのままオリックスが10-3と大勝し、6連勝となった。
ちなみに、イチローは3番を打っていた1998年9月13日のロッテ戦でも、1点を追う7回一死二塁のチャンスに、代打、トロイ・ニールを送られている。
6回の攻撃中、ベンチ裏で打撃フォームをチェックしていたニールのバットが手を離れ、近くにいたイチローの頭部を直撃したことが原因だった。「頭がガンガンする。カッコ悪いね」と痛みを堪えて7回の守備に就いたイチローだったが、額が腫れ上がっていたため、大事をとって、その裏の打席に立つことなく、交代した。
「今の結果からしたら、出る資格がない」
開幕から不動の4番を務めてきたのに、深刻な打撃不振から代打を送られたのが、日本ハム時代の中田翔だ。
2016年6月27日の西武戦、3-7とリードされた日本ハムは、7回に2点を返し、3番・陽岱綱が敬遠気味に歩かされたあと、二死一・二塁で4番・中田に打順が回ってきた。
だが、中田はここまで10試合で38打数4安打と不振を極め、この日も岸孝之の前に3打数無安打1三振といいところがなかった。
これまで辛抱して使いつづけてきた栗山英樹監督もついに意を決し、終盤の勝負どころで、勝負強い矢野謙次を代打に送った。
交代の理由を「腰の張り。あの回に報告があった」と説明した指揮官だったが、中田自身も「今の結果からしたら、出る資格がない」と言うほど、調子が悪かったのも事実だった。
そして、「4番に代打」の策がズバリ的中する。矢野が四球を選んで満塁とチャンスを広げたあと、田中賢介が左前に同点2点タイムリーを放ち、さらにブランドン・レアードの中前タイムリーで8-7と勝ち越し。鮮やかな逆転勝利を収めた。
「(代打は)何とも思わない。チームがすごい勝ち方をして良かった」とコメントした中田だが、内心は忸怩たる思いだったはずだ。翌28日の西武戦では4番を陽に譲り、連続試合出場も「361」でストップした。
だが、この試練をバネに、2試合欠場後、7月1日のソフトバンク戦から4番復帰をはたした中田は、8月末に3試合連続本塁打を記録するなど、次第に復調。最終的に打率.250、25本塁打、110打点で2度目の打点王に輝くとともに、4年ぶりのリーグ優勝と10年ぶりの日本一に貢献した。
阪神、球団史上初の“珍事”
4番を打つ助っ人に代打が送られる珍場面が見られたのは、2019年8月18日の巨人VS阪神だ。
東京ドームの3連戦で2連敗中の阪神は、この日も5回まで0-4の劣勢だった。
だが、6回に木浪聖也右前安打、福留孝介四球で、一死一・二塁と遅まきながら反撃の狼煙を上げる。このチャンスに打席に入るのは、4番、ジェフリー・マルテのはずだった。
ところが、矢野耀大監督は、代打にヤンハービス・ソラーテを送った。
実は、マルテは4回の打席で空振りした際に、「左胸が吊った」と訴えため、緊急交代となったのだが、トレーナーによれば、治療を施す必要もない程度の軽症だったとか。矢野監督も「いや、なんかちょっと胸が痛い、痛いっていうか、なんか……。うん、それで代えた。振れる感じがないっていう感じやったから」と苦しい説明に終始した。
理由はどうあれ、4番で先発出場した助っ人に代打が送られるのは、球団史上初の珍事だった。
だが、ソラーテはあっけなく二ゴロに倒れ、助っ人の代打に助っ人という苦肉の策も実らず……。この日も阪神は3-6で敗れ、伝統の一戦でシーズン4度目の3連戦3連敗を喫する羽目になった。
ちなみに同日は、日本ハムVS楽天でも、延長10回無死一・二塁の一打サヨナラのチャンスに4番・清宮幸太郎に代打・谷内亮太が送られ、1日に「4番に代打」の珍事が2つも起きている。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)