コラム 2024.02.23. 06:00

ラテンアメリカ野球の祭典に突如として現れたキュラソーの強さの秘密

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キュラソー代表

カリビアンシリーズとは?


 先日、中南米のプロ野球ウィンターリーグのシーズンの最後を飾るカリビアンシリーズがベネズエラの15年ぶり8度目の優勝で幕を閉じた。このシリーズの閉幕とともに、世界野球の重心は北へ移り、メジャーリーグのスプリングトレーニングが始まる。

 この国際チャンピオンシップシリーズは1949年からの長い歴史をもち、キューバ革命の影響による9年の中断期間があったものの、1970年に復活。翌1971年からはベネズエラ、プエルトリコ、ドミニカ、メキシコの4か国体制で長らく実施されていた。中南米カリブ地域には、これら4か国以外にも、シリーズ発足時の参加国であるパナマや、コロンビア、ニカラグアにも冬季プロリーグが存在したが、その経営は不安定で、廃絶を繰り返していたため、参加することはなかった。

 しかし、2006年のWBCをきっかけとしてプロレベルでの国際交流の機運が高まると、カリビアンシリーズも拡大の方向に舵が切られるようになった。2014年に、革命後「プロ」を放棄して「アマチュアの雄」となったキューバが「招待国」としてシリーズに復帰したのを皮切りに、2019年には、ベネズエラの主催返上という事態を受けて、自国開催に手を挙げたパナマも同じく「招待国」として復帰。そして、その翌年には、コロンビアが大会に初出場した。これら3か国はメジャー経験者も多く参加する従来の参加国である「ビッグ4」とのレベル差が懸念されたが、キューバは2015年、パナマは復帰した2019年、コロンビアは2022年にそれぞれ優勝を果たしている。


キュラソーの野球事情


 そして昨年、8か国目の参加国(地域)として初参加したのがキュラソーだ。

 ベネズエラの沖に浮かぶ、オランダ領のこの島はかつて周辺の島とともに「蘭領アンティル諸島」と呼ばれ、1989年にヤンキースでデビューしたヘンスリー・ミューレン(元ロッテ、ヤクルト)をはじめ、アンドリュー・ジョーンズ(元ブレーブス、楽天)ら多数のメジャーリーガーを輩出している。今や、世界の強豪のひとつに数えられるようになったオランダだが、ナショナルチームのメンバーの大半はこのカリブ領にゆかりのある選手であると言っていい。

 そのキュラソーがカリビアンシリーズの拡大策の波に乗り、初出場したのは昨年のことだったが、この当時、この島にはまだ冬季プロリーグはなく、出場したのは、夏季のアマチュアリーグ、AAリーグの優勝チーム、ワイルドキャツだった。

 もっとも「アマチュア」リーグと言っても、そこは本国・オランダのトップリーグ、フーフトクラッセと同じく、クラブの懐が許す限りは有給でプロの選手を引っ張ってくることが可能で、補強選手が許されているカリビアンシリーズには、ほぼ「オールプロ」で臨んでいた。

 それは今年も変わらなかった。というよりさらにパワーアップしてカリビアンシリーズの舞台に戻ってくると、総当たりの予選リーグを3勝3敗の3位で通過。強豪国のベネズエラ、ドミニカ、パナマとともに決勝トーナメント進出を果たした。

「冬野球の祭典」であるカリビアンシリーズ出場を意識してか、キュラソーの野球を統括しているキュラソー野球連盟は、この冬、AAリーグのトップ選手を集め、初のプロリーグとなるキュラソープロ野球リーグ(CPB)を立ち上げ、他国と足並みをそろえた。このリーグは発足当初とあって、3チームよる4回総当たり戦という非常に小規模なものにとどまったが、ここで優勝したサンズというチームの下に、各チームの精鋭が集まり、これに他国のウィンターリーグでプレーしていたメジャー経験者を加えて、今回のシリーズに臨んできたのだ。その結果出来上がったチームは、ほとんどオランダナショナルチームと言っていいものとなった。


主力の大半が昨年のWBCオランダ代表


 実際、打線を構成する主力選手の大半は、昨年のWBC代表選手だ。ロースター28人のうち過半数が昨年のオランダ代表選手で、メジャー経験者は9人。スタメンに限って言えば、打者9人中6人がメジャーリーガーで占められるという他国にひけをとるどころか、それ以上の打線となったのだから、今回の結果も当然のものといえるだろう。

 その陣容を見てみると、投手陣では、シャイロン・マルティスの名を挙げねばならないだろう。メジャー経験は3シーズンしかないものの、これまでWBCで4回オランダ代表のメンバーに入ったほか、北京オリンピック、2015年のプレミア12など豊富な代表歴をもつ。なんといっても彼の名は、2006年の第1回WBCにおいてコールドゲームの7回参考記録ながら最初の「ノーノ―」を成し遂げたことで球史に名を刻んでいる。

 そして、昨年レイズでメジャーデビューし、リリーフとして57試合に登板。5勝1セーブを記録したケビン・ケリーもメンバー入りし、度々ピンチでマウンドに登っていた。

 正直なところ、投手陣はこの2人以外には目立った名前は見当たらなかったのだが、一方の打線は実に豪華だった。

 大会を通してトップバッター務めたのが、メジャーで通算7シーズンプレーし、2010年にはナショナルズで外野のレギュラーも獲得していたロジャー・バーナディーナだった。彼は韓国でもプレーした経験を持ち、2019年にはBCリーグの石川ミリオンスターズに入団したものの、結局プレーせず台湾球界入りしたという日本野球とのニアミス経験ももっている。

 同じ外野には、昨年も125試合に出場し、もう「バリバリ」のメジャーリーガーと言っていいジュリクソン・プロファーがおり、やはり上位打線に名を連ねていた。昨シーズンの最後はダルビッシュ有や松井裕樹のいるパドレスで終えたが、現在はFA。今年もどこかのチームでプレーすることだろう。



バレンティンも「母国」のために現役復帰


 そして外野のもうひとりは、日本のファンにとって一番なじみの深いウラディミール・バレンティンだった。

 数度の「引退宣言」の度、フィールドに復帰していた彼は、現在は大会の行われていたマイアミに在住。昨年シーズンはプレーしなかったが、メキシコのウィンターリーグ、メキシカンパシフィックリーグでまたもや「現役復帰」し、「母国」であるキュラソーのため、カリビアンシリーズの舞台に戻ってきた。ほとんどの試合で4番を任された彼は、その期待に応え2ホーマーを放ち、ベストナインにも選ばれた。

 内野はさらに豪華でメジャーのスター選手で固められていた。

 まずは、ディディ・グレゴリウス。メジャーで11シーズンを過ごし、ヤンキースでプレーしていた2017年にはそれまではデレック・ジーターがもっていたショートストップとしてのシーズン記録を抜く32ホーマーを放ったビッグネームだ。昨シーズンは3Aとメキシカンリーグでプレーしたが、今シーズンはメジャーに復帰してあと1本に迫ったメジャー通算1000安打を狙う。

 彼にこのカリビアンシリーズについて聞くと、WBCに次ぐ重要な国際試合だとその意気込みを語っていた。

 彼は、シリーズ中はサードに入ることが多く、二遊間は、セカンドに、昨年途中までタイガースでプレーしていたジョナサン・スコープ、ショートには、エンゼルスで大谷と同僚だったアンドレルトン・シモンズが入っていた。この布陣はまさに昨年のWBCのそれそのものだった。

 今回のメンバーの内、昨年WBCの代表メンバーのピッチャー、フランクリン・ファンフルプと、ジュリクソンの弟で昨年はカナダの独立リーグ球団、ケベック・キャピタルズで14ホーマーを記録したジュレミ・プロファーが来月に行われる侍ジャパンのテストマッチの対戦相手である欧州選抜チームの一員として来日する。

文=阿佐智(あさ・さとし)
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