野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第39回:『オレが監督だ! Volume2~激闘ペナントレース~』
令和のプロ野球とゲームの距離は近くなった。パワプロシリーズ30周年記念作品にKONAMI野球ゲームアンバサダーの大谷翔平が登場。さらに西武の施設が『プロスピトレーニングセンター』に名称を変更することが発表された。凄い、例えば35年前にNPB球団で「燃えプロトレーニングセンター」とか、「究極ハリキリトレーニングセンター」なんてネーミングライツは考えられなかった。
今はファンだけでなく選手自身もゲーマーとなり、パワプロとプロスピが、あの熾烈な野球ゲーム戦争の勝者となったのだ。ファミコンやスーファミ時代はもちろん、日韓ワールドカップ開催で未曾有のサッカーバブルだった2002年ですらも、プレステ2では年間10本以上の野球ゲームがリリースされていた。
今回紹介する『オレが監督だ! Volume2~激闘ペナントレース~』(エニックス)も02年3月7日発売で、同日に『鬼武者2』(カプコン)や『サカつく2002 Jリーグ プロサッカークラブをつくろう!』(セガ)といった人気タイトルが世に出たこともあり、当時はほとんど話題にならなかった。
ゲームを通じて監督を“疑似体験”できる
実際の02年のプロ野球では開幕に先立ち、東京ドームは4億5500万円をかけて新人工芝の「フィールドターフ」に張り替える。衝撃吸収で選手の足腰への負担を減らす一方で、打球の勢いがなくなりヒットが激減したことが話題に。原辰徳新監督率いる巨人が日本一を達成して、50本塁打を放った松井秀喜はNPB最後のシーズンになったが、青年指揮官のタツノリはまだ血気盛んで、三冠王を狙う松井と首位打者を争う中日の福留孝介が、ペナント終盤に右ヒジの痛みで途中交代したことを知るとこんな発言をして物議を醸した。
「どうした、風邪でも引いたかな。福留がこのまま出なかったら、みんなで笑ってやろう」(週刊ベースボール別冊冬季号 2002プロ野球総決算)
これにはさすがに中日の山田久志監督もカチンときたようで、「非常識すぎる発言だ。監督だったら、『自分の力で追い越してみろ』と励ますのが普通だろ。頭にきた」と応戦。最終的に25歳の福留が打率.343で2位松井に9厘差をつけて初の首位打者を獲得する。
監督は発言ひとつにも気を遣わなければならない。心労絶えない大変な職業だが、野球ファンなら誰もがテレビ中継を眺めながら選手起用に突っ込んで「オレが監督なら……」なんて思いがち。というわけで、ゲームを通して監督疑似体験をできてしまうのが、この『オレが監督だ! Volume2~激闘ペナントレース~』である。2000年11月発売の前作に続くシリーズ第2作目だ。
21世紀初頭、ゴジラ松井が東京にいた時代、大阪には中村紀洋やタフィ・ローズが近鉄バファローズにいた。というわけで、懐かしの大阪近鉄の梨田昌孝監督を選択してペナントスタートだ。まず今年のスローガンを決める。すでに用意されたワードを組み合わせるわけだが、ここは迷わず「火を噴くでいてまえ軍団」に決定。打ち勝つ野球を標榜して、いざ開幕だ。なお、カレンダーは2001年3月から始まり、3年連続Bクラスに低迷すると監督解任されてしまう。。
しかし、パッケージ裏面で「細かな戦術情報をアナライズ」と謳われる試合中の采配面は、ベースの野球部分がホームラン出まくりで戦術以前の問題……と突っ込みどころ満載なので令和にやるとかなり厳しい。ついでにプレステ2の宿命でロード時間が長く、テンポも悪い。日程スキップがないので優勝戦線から脱落すると徐々に苦行のような雰囲気が漂い、ペナント移動日に別リーグの試合経過が強制表示されるといった課題が山積み。いかにも20数年前のクソゲーの匂いが漂っているのも事実だ。
『オレが監督だ!2』は野球ゲーム界のグッドルーザー
それでも、今こそ『オレが監督だ!2』を全野球ファンに薦めたい。なぜなら、リアルな「監督の日常」を垣間見ることができるからだ。毎日同じような質問をひたすら繰り返すマスコミにキレずに応答し続ける忍耐力。根気強く練習を見回り、「僕が打てなかったせいで負けました」と愚痴る若手選手を怒鳴りたいのを我慢して「次も期待してるぞ」と励ます人間力を問われる日々。
連敗中、打撃不振に喘ぐローズに声をかければ、「スミマセン、ヤル気ガ出ナクテ困ッテイマス」なんて気分屋の助っ人に対してどう声をかけるべきか悩みは尽きない。
マイチーム近鉄のペナントは開幕から投壊状態で、リポーターから「現在、チーム防御率8.84ですが?」とか聞かれても、何食わぬ顔で「数字よりも内容だから」と苦しいエクスキューズをかます指揮官の悲しい性。監督はツライよ……。チーム活性化のために巨人で出番を失いつつあったベテランの川相昌弘と吉永幸一郎をトレードで補強。さらに次代のエース候補として阪神から井川慶も獲得した(ちなみに岩隈久志は01年終盤から活躍したため選手登録されていない)。
移籍直後の選手にすかさず声をかけて、「期待してるぞ」とフォローすることも忘れない。二軍監督にはおすすめの二軍選手を定期的に聞きにいき、医療コーチには故障を抱えている選手の治療を依頼する。そして、隙あらばテレビのインタビュー対応だ。そりゃあ、梨田さんも女子アナから「今日のオーダー」を聞かれ、「デートしてくれたら教えるよ」なんて今ならコンプラ的に即アウトな言葉を口走ってしまう(※ゲーム内でのフィクションです)。
「あいつ何処にいる?」と看板スター選手の中村紀洋のところにわざわざ行って、「頑張ってくれ」とコミュニケーションをとると、ナイフみたいに尖ったノリさんにナチュラルに邪魔をしないでくれて的に𠮟られてしまう。だが、01年に46本塁打を放った全盛期のノリさんは凄かった。開幕から4試合連続アーチと打ちまくり序盤は打撃三冠を独走。しかし、チームは最下位低迷のチクハグさ(極端な打高投低設定のため松井秀喜はシーズン70本塁打前後を記録することも)。
なお、毎試合後に読める「エニックススポーツ」はクオリティが異様に高い仕上がりなので必見だ。一面の見出しや写真を楽しみ、R1ボタンでページをめくれて、全試合スコア詳細や打率ランキングも確認できてしまう。ここで野球ゲームとして力を入れるところが間違っているんじゃ……なんて冷静に考えたら負けだ。地味に野球ゲーム史上最高の架空スポーツ新聞といっても過言ではないだろう。
個人的にこのゲームには思い入れがある。初めて就職した会社を半年で辞めた直後、秋葉原の量販店のワゴンセールで新品980円を購入。発売から2年以上が経過していたが、しばらく浅草橋のワンルームマンションでプレーし続けた。ゲーム内で球団の年俸総予算など縛りがなく良くも悪くもユルい作りだったので、深く考えなくても適当に補強を繰り返してペナントレースは大雑把に進んでいく。オフイベントにはFA戦線含めた編成会議やドラフトモード。イチ監督として選手との会話やマスコミ対応しながら、次第にこの人たちと会話するよりリアルに早く就職面接いかねぇとなあ……なんて気がした25の夜。もし、最近のゲームについていけず疲れた。いや、日常に疲れたという方はぜひ『オレが監督だ! 2』を遊んでみてほしい。
世の中には、パワプロやプロスピにはなれなかった無数の野球ゲームがある。それは、失敗ではなく、挑戦だった。儚く散った敗者にこそ、ユーザーの思い入れとドラマが宿るのだ。『オレが監督だ! Volume2~激闘ペナントレース~』は、野球ゲーム界のグッドルーザーなのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)