コラム 2024.03.11. 18:30

侍ジャパン・井端監督、異能の指揮官【白球つれづれ】

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侍ジャパン・井端監督

白球つれづれ2024・第11回


 驚きと興奮と夢の結末を誰が予想できただろうか? 

 先週の野球界で話題を集めたのは、侍ジャパンの強化試合だった。

 3月6、7日に行われた対欧州代表戦。相手が米国や、韓国、台湾と言った強豪国でなかった点を差し引いても、圧巻の内容である。

 主役を務めたのは、村上宗隆、近藤健介選手らWBC優勝時の侍戦士ではなかった。何と初選出された大学生たちだ。

 初戦では途中出場の青学大・西川史礁選手が2打数2安打1打点の衝撃デビュー。それもファーストストライクから積極的にフルスイングする。打球の鋭さもプロ顔負けで、ヒーローはお立ち台に呼ばれた。

 第2戦では先発の関大・金丸夢斗、2番手の愛知工大・中村優斗両投手が胸のすく快投を演じる。150キロ台のストレートをコントロール良くコーナーに投げ分けると、スプリット、チェンジアップを駆使して2回4奪三振の金丸に対して、中村は自己最速タイの157キロの快速球を武器に欧州打線を寄せつけない。


「大学侍」が勢いをもたらすと、後続の隅田知一郎(西武)、種市篤暉(ロッテ)ら4投手も三振の山を築き、パーフェクトリレーを完成させてしまった。さらにこの試合、唯一の安打性センターライナーをジャンピングキャッチして防いだのも大学生の西川。ここまで来ると、主役の座を射止めたアマチュアたちも立派だが、異例の抜擢をした井端弘和監督の「慧眼」にも注目したい。


「趣味」は全国の野球場を見て回るスカウト活動


 昨年10月、侍ジャパンの8代目指揮官が誕生した。

 春には栗山英樹監督の下で世界一。これ以上ない成果を上げた後の後任選びは難航した。松井秀喜氏や工藤公康元ソフトバンク監督に、イチロー氏らの名前まで上がったが、辞退もあり、最後は実務型の井端監督にバトンは託された。

 これまでの侍ジャパンの監督と言えばスター選手の象徴である「名球会メンバー」か、監督として実績を残した実力者が就任してきた。だが、井端監督はそのどちらにも該当しない初の指揮官だ。

 もちろん、現役時代は中日で荒木雅博氏との鉄壁の二遊間で「アライバコンビ」として人気を博した名選手だが、監督としての手腕は未知数だけに、次回WBCまでの「つなぎの監督」として見られている側面もあった。

 しかし、実務派監督としての素養は現役引退後の足取りを見てもわかる。

 2019年のプレミア12や、21年東京五輪でコーチを務めただけでなく、アンダー世代のU-12監督も歴任。今回の侍ジャパン就任時にはU-15監督兼務となっている。つまり、以前から世代を超えた幅広い人材をフラットに見てきたから、今回の大学生抜擢も、プロとしてほとんど実績のない広島・田村俊介選手らの選出も出来たのだろう。

「趣味」は全国の野球場を見て回るスカウト活動だと言う。面白い人材がいると聞きつければ球場に足を運ぶ。前述の田村なら、愛工大名電高時代から着目、広島入り後も、わずかな打席を見ただけで将来性を確信して侍入りを決めた。大学勢なら全日本の合宿を視察して力量を見極めている。

 今回の強化試合には4人の大学生が招集された。中でも指揮官が最も評価していたのが遊撃手として今すぐでもプロで通用すると絶賛していた明大の宗山塁選手だった。

 その逸材は直前の練習試合で肩甲骨を骨折して、夢舞台の出場は叶わなかったが、名手・源田壮亮選手(西武)の指導を仰いで貴重な体験を積んでいる。これも井端流の先を見た育成法である。

 近年のプロ球界ではオリックスの中嶋聡監督をはじめ、巨人・阿部慎之助、ソフトバンク・小久保裕紀新監督ら、二軍監督経験者の抜擢が目につく。彼らに共通するのは生きのいい若手選手を起用することに積極的な点だ。

 一軍と二軍選手の力量は紙一重。少しのチャンスを与えれば飛躍的に伸びて来る選手もいることを分かっている。こうした視野をプロだけでなく、アマにも広げて俯瞰する目を体現したのが今回の「大学侍」の抜擢と大活躍だろう。

 恐るべし、井端流の野球改革。今秋に予定されるプレミア12では、最強軍団の編成が優先される。当然アマチュアには、狭き門となるだろうが、井端監督はそれでも大学勢の再招集を視野に入れている。

 この男、想像以上に視野が広く、行動力にも長期戦略にもたけている。ニューリーダーの次なる一手に興味が集まる。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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