白球つれづれ2024・第13回
メジャーの開幕戦が、日本より一足早く韓国で行われた。
3月20、21日にドジャースとパドレスが激突。初戦はタルビッシュ有と大谷翔平が初対決。2戦目はドジャースに入団した山本由伸の先発に注目が集まったものの、初回5失点の乱調でほろ苦いデビューとなった。
1勝1敗で終わった同シリーズには韓国だけでなく、日本や米国からも多くのファンが詰めかけ、大盛況。ここまでならMLBの世界戦略は思惑通りと言えた。しかし、最後になってド軍・水原一平通訳による違法賭博騒動が発覚。しかも多額の借金を大谷の口座から送金していたと言う事実が明るみに出て、水原通訳は即刻解雇。そこに大谷の名前が出たことで、全米どころか世界中の関心が寄せられている。
事の真偽は、今後の調査、捜査に委ねられるが、大谷にとって、親友であり、良きパートナーだった水原氏の解雇はショッキングなもの。不世出の大選手の今後に悪影響を及ぼさないことを願うばかりだ。
さて、本稿で取り上げたいのは、今年に入ってからの日本人メジャリーガーたちの低調な滑り出しである。
大谷、ダルビッシュの二枚看板は健在だが、それに続く投手に異変が見て取れる。
2月にはメッツの千賀滉大が右肩の張りを訴えてペースダウン。昨季チーム最多の12勝を挙げ、エース格に認知されたところで故障出遅れは痛い。
山本がパドレス戦で衝撃のKOを喫した直後には、24日にレイズとマイナー契約を結んでいた上沢直之が、メジャーの道を模索してオプトアウト退団。さらに今年からメッツに移籍していた藤浪晋太郎がマイナー行きを通告されている。ここまで上沢は防御率13.03。藤浪も同12.27と低調で首脳陣の信頼を勝ち得られなかったと言うことだ。
さらに同日のオープン戦ではブルージェイズの菊池雄星とタイガースの前田健太が投げ合ったが、菊地が8失点なら、前田も6失点の乱調ぶりで精彩を欠いている。残る大物はカブスに入団した今永昇太。4月2日のロッキーズ戦で先発予定だが、こちらもオープン戦では試行錯誤が続いている。現時点での調整ぶりから見ると、多くの日本人投手がメジャーの厚い壁に苦闘していると言えそうだ。
メジャーで長く活躍する投手の共通点とは?
今では、各球団に在籍する日本人メジャーリーガーだが、獲得する側(MLB)と、される側(NPB)の潮目が変わったのは21年の東京五輪と23年のWBCである。特に各国ともメジャーの強者を揃えたWBCの世界一は日本人投手のレベルの高さを実証した。
今では、単なるスカウティングではなく、各種機器を持ち込み、投手の球速、回転数、変化球の威力などを数値化して戦力としての適性を弾き出す。だからド軍は山本にして12年461億円という破格の契約を結べるのだ。
その山本の1イニング5失点でビューに対して、野球評論家の松坂大輔氏はスポーツニッポン紙上で「持ち前のスプリットが制球出来ず、“高低差”を生かしきれず、甘い半速球を狙い打たれた」と分析。本番を前にした調整不足も指摘している。
オリックスで3年連続投手4冠を達成した山本の持ち味は度の変化球もベース板の四隅にコントロールされ、全てが勝負球と言われる緻密な投球術にある。一刻も早く、その感触を取り戻すことを期待したい。
最後に指摘しておきたいのは、メジャーで長く活躍する投手の共通点は「変化を恐れない心」である。
投手・大谷は渡米直後はスライダーを手武器としていたが、翌年にはスプリットや大きなカーブをマスター。昨年は横に大きく変化する「スイーパー」を駆使して打者を寄せ付けなかった。データ全盛の時代。投手が新球マスターに必死になれば、打者もまたこれを研究してやり返す。
まさに「生き馬の目を抜く世界」。春先に苦しんでいる日本人投手の多くがこれから本番を迎える。
メジャーの、おいしくて甘い水を飲むのはここからが正念場だ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)