白球つれづれ2024・第14回
桜の開花予想は遅れても、プロ野球の“開幕桜”は、各球場ともに満開だった。
中でも、注目を集めた巨人vs阪神の激突。前年日本一の岡田阪神に、阿部慎之助新監督を迎えた巨人がどんな戦いを挑むのか? 単なる開幕3連戦と言うより、この1年間の両者の力関係を占う意味でも興味深かった。
結果は巨人の2勝1敗。初戦は18年目のベテラン・梶谷隆幸選手が、球史に残るスーパー・ダイビングキャッチでピンチを防ぐと、打っても5回に1号2ランで相手エース・青柳晃洋を沈めた。
第2戦は巨人の岡本和真、坂本勇人両選手に一発が飛び出し、投げては先発のフォスター・グリフィン以下4投手でリレー完封。なお、この試合でも守りのビッグプレーがチームを救った。
4回一死一・三塁から坂本誠志郎選手がスクイズを狙ったが、小フライに岡本がダイビングキャッチで好捕して併殺としている。
第3戦は得点力不足に泣く阪神が、ようやく森下翔太選手の一発で一死を報いたが全戦を通じて、どちらに勝敗が転んでもおかしくない好ゲームだった。
前年度の伝統の一戦は阪神の18勝6敗1分けとほぼワンサイドの決着に終わった。阿部新監督にとっても、この差を埋めなければ打倒・阪神もあり得ない。
そこで就任早々、着手したのが投手陣の再整備と攻撃面では機動力野球の推進だ。
開幕初戦で、いきなり“勝利の方程式”が実現した。7回をドラフト1位ルーキー・西舘勇陽、8回に中川皓太が抑えて、9回を大勢が復活の抑え。昨年は特に中継ぎ投手陣が崩壊、勝利のパターンも築けなかった。そこでオフに大補強。質量ともに揃ったスタッフに指揮官も手応えを感じ取れたはずだ。
そして、今季の最大重要ポイントに挙げた機動力野球も開幕から威力を発揮した。
戦前、敵将は巨人戦の警戒すべきポイントに「小さくて、足の速い選手たち」と挙げていた。具体的にはドラフト3位・佐々木俊輔と門脇誠選手で組む新1、2番と、もっと言うなら8番に入る吉川尚輝を加えた俊足トリオである。
第1戦の5回、吉川の二塁打を足場に一死三塁のチャンスを築くと、佐々木の遊ゴロに吉川がギャンブルスタートで応えて、今季初得点を上げる。
第2戦でも7回無死二塁から佐々木、門脇がバント、スクイズを仕掛ける。最後はこれまた福井の松原聖弥選手がダメ押しタイムリー。脇役たちが走り回ればチームに新たな活力が生まれる。
伝統の一戦で見えた阿部巨人の戦い方
阿部監督の教材はまさに岡田阪神にあった。就任以来、データを洗い出す中で両軍の差を思い知らされる。チーム本塁打は阪神の84本に対して巨人は倍近い164本。だが四球を選んだ数は巨人の365個に対して阪神は494個。この結果、チームの総得点も巨人523点に対して、阪神555点と逆転する。これは何を意味するのか? いかに効率よく得点を上げ、いかに失点を防ぐか? 一発頼みの大味野球では限界がある。
加えて捕手出身の指揮官には、相手がどんな攻撃を仕掛けてくるのが嫌なのか? 接戦をモノにするにはそつのない、もっと言えば「いやらしい野球」が必要なことをマスク越しで学んでいる。
昨年の阪神で言えば、攻撃力の大きなポイントは近本光司、中野拓夢両選手の機動力が握り、さらに8番に起用された木浪聖也選手が打線を機能させるキーマンとなっていた。これを巨人版に当てはめたのが、佐々木、門脇と吉川になるのだろう。
チームは開幕直前に、新外国人、ルーグネッド・オドーア選手の突如の退団に揺れている。メジャ通産178発の大砲は二軍調整を命じられて退団の道を選んだと言う。クリーンアップの一角で30ホーマー異常を期待された助っ人の職場放棄は痛いが、代わりに梶谷や丸佳浩選手らのベテランが奮起するならこれも良し。加えて大砲の離脱は改めて、機動力急に拍車をかけていくだろう。
大変身を遂げた阿部巨人が今後もポリシーを貫いていけるのか? それによってセ・リーグの覇権争いは大きく様変わりするような気がする。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)