膠着する試合を“動かした”左腕
“スペードのエース”の快投が流れを変えた。
3月31日のジィアンツ戦の7回、3番手でマウンドに上がったタイガースの桐敷拓馬の仕事は早かった。
1番から始まる上位打線と対峙しわずか12球で料理。スコアレスの展開で6回まで力投した才木浩人から受け取ったバトンをしっかり守ると、直後の攻撃で森下翔太が開幕から26イニング目、チームにとって今季初得点となる3ランを左中間スタンドに叩き込んだ。
開幕3連敗を免れ、今季初勝利を決定づけたのは森下でも、膠着する試合を“動かした”のは3年目左腕だった。
「自分のやることはできましたし、その後、森下とか野手陣の皆さんが打ってくれたので流れを持ってこられたのかなと」
その言葉通り、流れを持ってくるパフォーマンスを披露した。
左投手対策で代打登場した先頭の浅野翔吾をツーシームで中飛に仕留めると、門脇誠は同じ球種で空振り三振。二死から迎えた松原聖弥からはフォークで空振り三振を奪って颯爽とマウンドを降りた。
「3人で切れましたし、(左打者の)インコースをつけましたし」
コメントからもただ0点に抑えることだけでなく、3者凡退で野手陣に攻撃のリズムを生み、自身も内角を意識した攻めの姿勢を見せる。目に見えない“流れ”や“勢い”が生まれたのだとすれば、うなずける投球内容だった。
正真正銘の「救援投手」へ
昨季、岡田彰布監督の発案でシーズン途中に先発から配置転換しブルペンに定着。
指揮官からは「スペードのエース」と独特の言い回しで信頼を口にされ、今季は主に勝ちパターンの7回を任される。
リードした展開でダブルストッパーの岩崎優やハビー・ゲラに勝利のバトンをつなぐことはもちろん、この日のような快投で流れを変える、試合を動かす役割も期待される。
「3連敗とは全然違うので良かった。ここからスタートなのでまた一からやっていきたい」
昨年は救援に限れば25試合登板で防御率0.94と抜群の安定感を示し、初めて開幕からブルペンの一員として迎える今季はブレークの予感も漂う。
ただ、救援への適性を示しながら本人は「1年間投げ抜いてチームに貢献することが目標。去年は半年、後半戦だけだったので」と首を振る。
正真正銘の「救援投手」となるべく、1月は岩崎に弟子入り。
「全力投球ばかりでは1年もたない」と先輩左腕を参考に“脱力投法”に着手しリリースの力加減や感覚を磨いてきた。
同時に昨季のセーブ王から説かれたのは「投げミスをした時の感覚を分かっておくこと」。打たれても次の日にまた出番がやってくるリリーバーの心得も学んだ充実の日々を過ごした。
今季は50試合登板が目標。「スペードのエース」が7回でフル回転すれば、連覇を目指すチームは数多くの勝利を手にできるはずだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)