野球は、時には思わぬ障害物がプレーに大きな影響を及ぼすことがある。1982年の日本シリーズ、西武対中日戦(第5戦)では、一塁手の右を抜けた打球が一塁塁審の右足に当たって跳ね返り、二塁手の正面に転がったことから、長打を確信して三塁を回った二塁走者がアウトになり、先制のチャンスが一瞬にして潰える“石ころ事件”(打球が石ころに当たってイレギュラーするケースと同じ解釈になった)が起きた。そして、プレー中の障害物は、“石ころ”以外にも存在する。
飛球を追った捕手が障害物につまずいて、捕球に失敗するアクシデントが起きたのが、1998年9月22日の広島VS巨人だ。
6回に入来祐作の2点タイムリーなどで一挙5点を勝ち越された広島は、その裏の反撃も、金本知憲三振、江藤智三ゴロで簡単に二死。次打者・浅井樹も一塁ファウルゾーンへ飛球を打ち上げた。
ところが、これでスリーアウトチェンジと思われた直後、捕手の柳沢裕一がウェーティングサークルに置いてあったバットやスプレーにつまずいて体勢を崩し、落球してしまう。
だが、佐々木昌信球審は、障害物がなければ、柳沢は問題なく捕球できていたと見なし、野球規則7.11(攻撃側のチームのプレー中、ベースコーチ、またはその他のメンバーは、打球あるいは送球を処理しようとしている野手の守備を妨げないように、必要に応じて自己の占めている場所を譲らなければならない)を適用。浅井にアウトを宣告した。
自らのバットで試合を決めるタイムリーを放ち、乗りに乗っていた入来は、守備妨害のオマケ付きの三者凡退でますますリズムが良くなり、5回以降をパーフェクトの快投。プロ初完投勝利を挙げた。
これとは対照的に、2016年5月27日の巨人VS阪神では、2回無死一塁、今成亮太の二盗をアシストしようと大和が空振りしたバットが本塁付近に転がり、このバットを巨人の捕手・小林誠司が踏んづけたことから、二塁悪送球となったが、「故意ではないと。ルールはいろいろあるが、打者も打席から出ていないので」(笠原昌春審判)という理由で、守備妨害は適用されなかった。割りを食う形になった高橋由伸監督は「僕の知っている範囲では、故意も故意じゃないも関係ないと思います」と納得しかねる様子だった。
好返球が障害物により、一転悪送球に早変わりする珍プレーが見られたのが、2009年9月4日のロッテVSオリックスだ。
初回に2点を先制したオリックスは、2回にも一死二、三塁のチャンスをつくり、山崎浩司が右邪飛を打ち上げた。
犠牲フライを阻止しようと考えたライト・大松尚逸は、捕球するやいなや、素早くバックホーム。三塁走者・下山真二もタッチアップを断念するほどの見事な返球だったが、次の瞬間、思わず口アングリのハプニングが起きる。
なんと、大松の返球は、本塁から3メートルほど離れた一塁寄りに落ちていたバットに、ワンバウンドでヒット。「カキーン!」という音ともに、ボールは大きく跳ねると、一塁ベンチ方向に転がっていくではないか。この間に下山が「しめしめ」とばかりに3点目のホームを踏み、大松に悪送球が記録されたのは、なんともお気の毒だった。
ロッテのボビー・バレンタイン監督は「誰かがバットをどけておかなければいけなかった。あのようなプレーは見たことがない」と目を白黒。大松も「三塁走者が走っていなかったんで、内野に中継プレーをしておけば良かった」と悔やみに悔やんだ。この回2点を失ったロッテは4-13と大敗し、最下位転落と、まさに泣きっ面に蜂だった。
本塁クロスプレーの際に打席を外していた打者の足が邪魔になって、まさかのサヨナラゲームになったのが、2018年5月10日のオリックスVS日本ハムだ。
1-1で引き分け寸前の12回裏、オリックスは先頭の安達了一が左前安打で出塁。送りバントで二進後、代打・中島宏之敬遠、宗佑磨中前安打で一死満塁と一打サヨナラのチャンスをつくった。
代打・伏見寅威は三振に倒れ、二死となったが、次打者・小田裕也のとき、浦野博司の初球がワンバウンドし、捕手・鶴岡慎也はボールを一塁方向にそらしてしまう。三塁走者・安達は、いったんは本塁突入を自重したが、直後、鶴岡が倒れこむような体勢から慌てて本塁ベースカバーの浦野に送球したことが、明暗を大きく分ける。
鶴岡の送球は、なんと、打席を外していた小田の足に当たり、一塁線を転々。これを見た安達が再スタートを切ると、浦野の本塁送球も暴投になり、3連続暴投による珍サヨナラ劇が成立した。
思わぬ棚ぼた勝利に、オリックス・福良淳一監督も「こんなもんで勝てて良かったです。これからも借金を返していけるよう頑張ります」とホクホク顔。このような事情から、ヒーローインタビューの人選は困難を極めたが、結局、サヨナラのヘッスラ生還をはたした安達がお立ち台に呼ばれることに。
だが、真のヒーローは、無意識のうちに絶好の立ち位置をとっていた小田であることは、衆目の一致するところ。テレビ解説のオリックスOB・大島公一氏も「ヒーローは小田じゃないですか」と後押ししていた。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)
バットやスプレーのせいで“落球”
飛球を追った捕手が障害物につまずいて、捕球に失敗するアクシデントが起きたのが、1998年9月22日の広島VS巨人だ。
6回に入来祐作の2点タイムリーなどで一挙5点を勝ち越された広島は、その裏の反撃も、金本知憲三振、江藤智三ゴロで簡単に二死。次打者・浅井樹も一塁ファウルゾーンへ飛球を打ち上げた。
ところが、これでスリーアウトチェンジと思われた直後、捕手の柳沢裕一がウェーティングサークルに置いてあったバットやスプレーにつまずいて体勢を崩し、落球してしまう。
だが、佐々木昌信球審は、障害物がなければ、柳沢は問題なく捕球できていたと見なし、野球規則7.11(攻撃側のチームのプレー中、ベースコーチ、またはその他のメンバーは、打球あるいは送球を処理しようとしている野手の守備を妨げないように、必要に応じて自己の占めている場所を譲らなければならない)を適用。浅井にアウトを宣告した。
自らのバットで試合を決めるタイムリーを放ち、乗りに乗っていた入来は、守備妨害のオマケ付きの三者凡退でますますリズムが良くなり、5回以降をパーフェクトの快投。プロ初完投勝利を挙げた。
これとは対照的に、2016年5月27日の巨人VS阪神では、2回無死一塁、今成亮太の二盗をアシストしようと大和が空振りしたバットが本塁付近に転がり、このバットを巨人の捕手・小林誠司が踏んづけたことから、二塁悪送球となったが、「故意ではないと。ルールはいろいろあるが、打者も打席から出ていないので」(笠原昌春審判)という理由で、守備妨害は適用されなかった。割りを食う形になった高橋由伸監督は「僕の知っている範囲では、故意も故意じゃないも関係ないと思います」と納得しかねる様子だった。
泣きっ面に蜂
好返球が障害物により、一転悪送球に早変わりする珍プレーが見られたのが、2009年9月4日のロッテVSオリックスだ。
初回に2点を先制したオリックスは、2回にも一死二、三塁のチャンスをつくり、山崎浩司が右邪飛を打ち上げた。
犠牲フライを阻止しようと考えたライト・大松尚逸は、捕球するやいなや、素早くバックホーム。三塁走者・下山真二もタッチアップを断念するほどの見事な返球だったが、次の瞬間、思わず口アングリのハプニングが起きる。
なんと、大松の返球は、本塁から3メートルほど離れた一塁寄りに落ちていたバットに、ワンバウンドでヒット。「カキーン!」という音ともに、ボールは大きく跳ねると、一塁ベンチ方向に転がっていくではないか。この間に下山が「しめしめ」とばかりに3点目のホームを踏み、大松に悪送球が記録されたのは、なんともお気の毒だった。
ロッテのボビー・バレンタイン監督は「誰かがバットをどけておかなければいけなかった。あのようなプレーは見たことがない」と目を白黒。大松も「三塁走者が走っていなかったんで、内野に中継プレーをしておけば良かった」と悔やみに悔やんだ。この回2点を失ったロッテは4-13と大敗し、最下位転落と、まさに泣きっ面に蜂だった。
「ヒーローは小田じゃないですか」
本塁クロスプレーの際に打席を外していた打者の足が邪魔になって、まさかのサヨナラゲームになったのが、2018年5月10日のオリックスVS日本ハムだ。
1-1で引き分け寸前の12回裏、オリックスは先頭の安達了一が左前安打で出塁。送りバントで二進後、代打・中島宏之敬遠、宗佑磨中前安打で一死満塁と一打サヨナラのチャンスをつくった。
代打・伏見寅威は三振に倒れ、二死となったが、次打者・小田裕也のとき、浦野博司の初球がワンバウンドし、捕手・鶴岡慎也はボールを一塁方向にそらしてしまう。三塁走者・安達は、いったんは本塁突入を自重したが、直後、鶴岡が倒れこむような体勢から慌てて本塁ベースカバーの浦野に送球したことが、明暗を大きく分ける。
鶴岡の送球は、なんと、打席を外していた小田の足に当たり、一塁線を転々。これを見た安達が再スタートを切ると、浦野の本塁送球も暴投になり、3連続暴投による珍サヨナラ劇が成立した。
思わぬ棚ぼた勝利に、オリックス・福良淳一監督も「こんなもんで勝てて良かったです。これからも借金を返していけるよう頑張ります」とホクホク顔。このような事情から、ヒーローインタビューの人選は困難を極めたが、結局、サヨナラのヘッスラ生還をはたした安達がお立ち台に呼ばれることに。
だが、真のヒーローは、無意識のうちに絶好の立ち位置をとっていた小田であることは、衆目の一致するところ。テレビ解説のオリックスOB・大島公一氏も「ヒーローは小田じゃないですか」と後押ししていた。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)