「マウンドで投げられているところを見せられてすごく良かった」
2軍本拠地の鳴尾浜球場は平日にも関わらず朝から開門待ちのファンが180人の列を作った。
応援タオル、ユニホーム、アクリルスタンド…背番号29が刻まれたグッズを手にした各々がそれぞれの思いを託してプレーボールを待った。
4月17日のウエスタン・リーグのバファローズ戦。タイガースの髙橋遥人が先発投手としてコールされた。
昨年6月に受けた「左尺骨短縮術」および「左肩関節鏡視下クリーニング術」から復活を目指してリハビリに取り組んできて、実戦登板は893日ぶり。ファン、何より本人が一番待ち焦がれてきた“場所”へようやく帰ってきた。
本人が「ソワソワしていた」と振り返るように前日の夜から当日の登板直前までずっと緊張しっぱなしだったそうだ。胸の高鳴りが外まで聞こえてきそうな状態でマウンドへ向かった。
初球。146キロの直球を1番・杉沢龍に捉えられた打球が自らを襲った。ライナーを好捕して最初のアウトを奪うと少し落ち着いた。1安打を浴びたものの、直球の最速は147キロを計測し、1軍の強打者たちが攻略に苦しんできた「宝刀」ツーシームで空振り三振も奪取。3年ぶりの復帰登板としは上々の内容に見えた。
「いろんな人に見に来てもらって感謝、ありがたいですし、ずっと投げない中でも応援してくださってる人の声とか聞こえていたのでまたこうやってマウンドで投げられているところを見せられてすごく良かったなと思います」
スタンドに詰めかけた人たちだけじゃない。昨年までの3年間で肘に2回、肩に1回メスを入れるなど長く故障に苦しんできた期間に励ましの言葉や声援を送ってくれた「すべての人」に感謝した。
「ストレートの質をもっと上げて」
昨年、育成契約に切り替わり、地道なリハビリを経てたどりついたマウンド。まずは、ほっとひと息つきたいところでも、1軍のしびれる舞台で腕を振ってきた左腕は、視線を上げた。
「パフォーマンス的にはまだまだですし、狙っているところに全部いってる訳でもない。球威の部分も球速の部分もまだまだなんで」
全球145キロ以上をマークした直球の出来には首を振った。この日、闘争本能を呼び覚ました場面があったとすれば1死一塁で横山聖哉を迎えた場面。吉田正尚(レッドソックス)もまとった背番号34を付けたドラフト1位の18歳ルーキーに直球勝負を挑むもファールで粘られ、最後は8球目のツーシームで空振り三振を奪ったが、試合後は悔しげだった。
「まっすぐでまだ勝負つけられなかったので」。本当の意味での復活は、入団以来、多くの同僚が「エグい」と称した直球の威力が戻ってきた時なのだろう。
「ストレートの質をもっと上げて……。そこだけですかね。そこが一番だと思うので。そこが良ければOKという感じなので。(課題は)ずっとストレートですかね」
“まっすぐ”への一途な思いとともに、髙橋遥人は甲子園のマウンドを目指す。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)