コラム 2024.04.23. 07:00

大魔神・佐々木の二刀流挑戦、暗黒期の阪神を救い、ラスボス・イチローを倒す!!『パワプロ3’97春』の超名作シナリオモード

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野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第40回:『実況パワフルプロ野球3’97春』


 イチローを抑えるには、どういう攻め方をしたらいいのだろうか?

 30年近く前、ブラウン管テレビの前でスーファミのコントローラーとやおきんのBIGカツを握りしめながら、少年たちは必死になって考えた。野球ゲームは、球史を映す鏡である。30周年のアニバーサリーイヤーを迎えたパワプロシリーズは、家庭用ゲームの累計販売本数は2,510万本。モバイルゲームは累計ダウンロード数5,000万を超えたという(2023年9月時点/公式サイトより)。

 多くの人がそれを通してプロ野球を知ったという意味では、テレビやインターネット、新聞や雑誌と同じく、この30年間のプロ野球を語る上で、パワプロも貴重な資料となり得るわけだ。

 パワプロの「シナリオモード」は、実際にあった名勝負を状況はもちろん、選手の調子も忠実に再現している。もちろん90年代には現在のようにリアルタイムの試合結果に対応した「LIVEシナリオ」配信はまだ存在せず、いわば12球団の年間ベストバウトを12試合分プレイすることになるわけだが、これが令和の今遊ぶと、当時の球界の流れや傾向もしっかり学べる神モードなのである。




平成球界のあの名勝負をプレイバック


 今から27年前、1997年3月20日発売のスーパーファミコンソフト『実況パワフルプロ野球3’97春』のシナリオモードも充実の内容だ。松井稼頭央(西武)、立浪和義(中日)、小久保裕紀(ダイエー)、新庄剛志(阪神)、中嶋聡(オリックス)、三浦大輔(横浜)、吉井理人、高津臣吾(ヤクルト)ら多くの現監督陣がそれぞれのチームで主力を張る平成球界をプレイバック。

 本作の選手データの元になっている96年シーズンは、セ・リーグはメークドラマの長嶋巨人、パ・リーグはイチロー擁する仰木オリックスが優勝。シナリオモードも両球団が絡んだものが多い。この年の日本シリーズ第1戦は、延長10回表にイチローの決勝ホームランでオリックスが先勝するが、巨人のシナリオ「代打?」はその第1戦、3対3の同点に追いついた9回裏の攻撃から始まる。

 土壇場で代打・大森剛の同点2ランが飛び出すも、10回表のオリックスの攻撃は好調の田口壮、大島公一、イチローと続くことを考えると、9回裏に一気にサヨナラ勝ちを決めたい。なお、巨人は96年オフに清原和博がFA加入しており、ポジションの被る落合博満が退団。本作では「松井・清原」のMK砲で打倒オリックスに挑む。ゲームならではの史実との微妙なタイムパラドックス感も野球ファンにはたまらない。

 もちろん全力でサヨナラ勝ちを狙うもよし。あえて10回表に突入して、現実ではイチローに決勝アーチを打たれた河野博文でリベンジに挑むもよし。なお、96年シーズンの河野は夏場にリリーバーとしてフル回転。8月の月間MVPに輝き、初代最優秀中継ぎ投手も受賞している。この年、胴上げ投手になった川口和久は、ともにブルペンを支えた左腕をこう絶賛した。

「1年間を見たら投手の貢献者は俺なんかじゃない。河野ゲン(博文)ちゃん。長嶋さんは困ったらゲンちゃんだったからね。覚えているでしょ? 「ピッチャー、ゲンちゃん」って言いながら手をひらっとする姿(笑)。まさに陰のMVPだったと思うよ」(よみがえる1990年代のプロ野球 1996年編/ベースボール・マガジン社)


最難関のシナリオは暗黒期の阪神で勝利


 何事も表があれば、裏もある。実はオリックス側のシナリオモード「防壁」も、同じく巨人と戦った日本シリーズ第1戦をピックアップしている。イチローの一発で勝ち越したオリックスだが、直後の10回裏に抑えの平井正史が無死一・二塁のピンチを招く。リードはわずか1点。打席には新人ながらも外野レギュラーを掴んだ清水隆行。果たして、逃げ切れるのか? なお、この試合はテレビ視聴率43.1%(関東地区)を記録。まさにプロ野球が“国民的行事”だった最後の時代でもあった。

 その巨人と最後まで優勝争いをした中日のシナリオは「因縁」。96年10月6日、宿敵ジャイアンンツとのナゴヤ球場ラストゲームに敗れ優勝を逃した一戦を97年から開業したナゴヤドームでリマッチ。2点を追う7回裏一死満塁で、打席にはゲーム屈指のミートカーソル7を誇るアロンゾ・パウエルからスタート。外野スタンドで誇らしげに掲げられる横断幕には、ナチュラルに「鉄拳制裁星野」の文字……って不適切にもほどがある平成初期の球界である。




 江藤、前田、金本、緒方、野村、ロペスと12球団最強の攻撃力を誇る広島は、9回表一死満塁から中日のサウスポー今中慎二相手に4点ビハインドを逆転するシナリオ「炸裂」だが、5月31日の横浜戦でセ・リーグ12年ぶりの20得点を記録した“ビッグ・レッド・マシン”にとって難易度は星2つとそれほど高くない。

 対照的に星4つの難所が、横浜の「シーソーゲーム」。6月23日、東京ドームの巨人戦、1点を追う9回表、二死一・二塁の一打同点のチャンスでピッチャー河野のゲンちゃんに対して、打席には畠山準。次打者は絶対的クローザーの佐々木主浩だが、他に投手は使い切っているため代打は出せない。なんとしても、畠山で単打よりホームランを狙いたい場面だが、四球を選んでしまうと、大魔神・佐々木でタイムリーヒットを打たなきゃならないある意味絶体絶命。しかも同点止まりで延長戦が長引くと、リリーフ佐々木のスタミナが持たず勝機はほぼないので、結果的に畠山にかかるプレッシャーが半端ないゲーム屈指の難易度となっている。


 そして、当時2年連続最下位に沈む暗黒期の阪神のシナリオモード「マラソン」は星5つの最難関コースだ。6月15日、甲子園での巨人戦。1対1で迎えた10回表の守備からプレイ。公式完全ガイドブックには「阪神のスタメン選手全員が絶不調状態。控えの星野だけが絶好調なので、彼をどこで使うかが勝負のカギになる。ただでさえ総合力の低いチームなのに……」と軽くディスられつつ状況説明。阪神バッター陣の打球が低反発球レベルで飛ばないので延長15回も見据えて、好調のピッチャー郭李でなんとか抑え、二塁にランナーを進めたら、即代打星野で勝負に出る作戦でクリアを狙いたい。




シナリオをコンプリートすると“ラスボス”のイチローと対戦


 なお12球団すべてのシナリオをコンプリートすると、スペシャルシナリオがプレイできるが、西武の渡辺久信でオリックス打線をノーヒットノーランせよ(96年6月11日)では、9回表に異様にミートカーソルが巨大な好調イチローを抑えなきゃならないという、まさに背番号51がラスボスのような扱いになっている。

 オリックス時代のイチローはどれだけ凄かったのか? 全盛期の大魔神・佐々木のフォークのエグさは? 暗黒期の阪神はいったいどんな戦力で戦っていたのか? 当時の新聞や映像を確認する以上に、リアルな90年代中盤のプロ野球をがっつり体感できてしまう。

 まだDAZNもパ・リーグTVも存在しなかったあの頃、12球団の選手を僕らに教えてくれたのは、パワプロのシナリオモードだった

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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