白球つれづれ2024・第19回
交流戦に突入しても日本ハムの「新庄劇場」は好調だ。
新庄剛志監督の古巣である阪神戦(甲子園)では、メンバー交換の際に阪神の縦じまユニホームで登場。本来、野球規則では禁じられている“反則技”を使ってまで新庄ワールドを披露、山﨑福也投手を6番打者で起用すると先制タイムリーまで放つ。岡田阪神のペースをすっかり狂わせて?連勝。(1試合は雨天中止)
本拠地に戻ったDeNA戦は連敗スタートとなったが、2日の同カードは9-2で大勝。今季の最大連敗は5月6日からの対ソフトバンクに3連敗が一度あるだけ、3日現在28勝20敗2分けの好成績はこんなところからもうかがえる。
今季2度目の3連戦3連敗のピンチを救った選手たちも、今の日ハムの勢いを象徴している。投げては3月に支配下登録されたばかりの福島蓮投手が7回を2失点でプロ初勝利。打線では一番に抜擢された水谷瞬選手がプロ1号を含む2安打2打点の大暴れでお立ち台に呼ばれた。
中でも、存在感が際立っていたのは23歳の主砲候補・水谷だ。
昨年オフに行われた第2回現役ドラフトでソフトバンクから移籍。過去5年間のソフトバンク時代は厚い戦力層に阻まれて、一軍の実績はゼロだった。それでも獲得にあたった木田優夫GM代行は、素材の良さをこう語っている。
「万波選手の様にリーグトップクラスのパワーヒッターになってくれれば」
同じハーフで、昨年大ブレークした万波中正選手とは同じ年。体格は万波を一回り大きくした193センチ、99キロ。大化けすれば「万波二世」も夢ではない未完の大器だった。
あり余るパワーを発揮したのは4回に回ってきた第3打席だ。DeNA先発・大貫晋一のカーブを振り抜くと左中間スタンドに届く待望のプロ初アーチ。しかも、これが打ち直しの一発となるのだから恐れ入る。
直前の第2打席で、同じ方向に放った一打は左中間フェンス上段の鉄柵を直撃してグラウンドに跳ね返ってきた。グラウンドルールでは、境界となる青いラインより上なら本塁打と明記されているが、審判を含めて誰も確認出来ずに二塁打扱い。つまり「幻の1号」の直後に、正真正銘の一発を見舞ったことになる。
「打ち直した方がかっこいい。話のネタにはなったんで良かった」
「2打席目も厳密に言えば(スタンドに)入っていたとか。そういう話を聞いていたので、次の打席にはプロテインを飲んでいきました」
ヒーローインタビューでは、大物感たっぷりに声を弾ませると、最後はソフトバンク時代の師匠・松田宣浩氏(昨年限りで現役引退)譲りの「熱男~」コールで締めくくった。
効率のいい補強が目立つ日本ハム
水谷の名前が先発メンバーで記されたのは5月21日のオリックス戦。一軍再昇格を果たすと、いきなり5番で先発起用されると2安打をマーク。前日に自身のインスタグラムで起用予告した新庄監督らしい、「ひらめき用兵」がずばりと当たると水谷の出番も増えていった。
交流戦では3日現在、19打数11安打5打点と打ちまくり、打率.579は12球団トップ。この先の働き次第では交流戦の首位打者やMVPまで狙える位置にいる。
この水谷だけでなく、捕手の田宮裕涼、内野で郡司裕也、投手で北山亘基選手ら、今季の日本ハムではフレッシュな選手が台頭して、日替わりヒーローにもなっている。他にも昨年ソフトバンクから移籍した田中正義投手がクローザーの地位を確立すれば、今季オリックスからFA移籍の山﨑福也投手が大車輪の活躍を見せるなど、効率のいい補強が2年連続最下位からの逆襲を可能にしている。
中でも水谷のような現役ドラフト組の活躍は、前年までファームに眠っていた好素材が突如、戦力に生まれ変わるのだからチームへの波及効果は計り知れない。
第1回の現役ドラフトでは、DeNAから中日に移った細川成也選手が今では4番に座る。ソフトバンクから阪神に移籍した大竹耕太郎投手はチームの優勝に大きく貢献した。
埋もれている人材を再発掘するのが現役ドラフトの大きな意義。二年目の今季は水谷がトップランナーとして光を放ち出した。
年俸560万円(推定)の若者が、この先どれほどビッグになっていくのか?
今や、新庄ハムのキーマンになりつつある。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)