「何回目やこれ。あいつが止めたのは」
指揮官が試合後に待ち構える報道陣に発した言葉がこの日の殊勲者が誰なのかを示していた。
「才木に聞いたれ(笑い)。俺はもうええやろ」
交流戦開幕から4連敗を含む今季ワーストの5連敗とどん底だったチームに待望の白星をもたらしたのは2日のマリーンズ戦に先発したタイガースの才木浩人だった。
貧打に苦しむ打線は初回、1番に起用された森下翔太が相手先発のC・C・メルセデスから左翼越えの先頭打者本塁打を放って先制。結果的に才木はこの1点を最後まで守り抜き、スコアボードに9つのゼロを叩き込んで救世主となった。
唯一、窮地に追い込まれたのは最終盤。9回、先頭打者の小川龍成に中前に運ばれると、続く髙部瑛斗の放った三遊間へのゴロは内野安打となって無死一・二塁とされた。ここでネフタリ・ソト、グレゴリー・ポランコと中軸のダブル助っ人と対峙。一発を浴びれば試合をひっくり返され、チームにとっては敵地・千葉で3戦連続のサヨナラ負けとなる悪夢もちらついた。ただ、マウンドに立つ背番号35の気持ちは微塵も揺らいでいなかった。むしろ、決意を強くしていた。
「まあまあ、あそこはもう最後気持ちなんで。まっすぐで、もうどんどん押していこうと思ってたんで」
ソトを追い込むと、最後は内角への直球で詰まらせ遊ゴロ併殺に仕留めた。なお二死三塁。前の打席でフォークを右前に運ばれているポランコには初球から5球連続で直球を投げ込み二ゴロで試合を終わらせた。
ソトへの最後の2球も含めると、直球は実に7球連続。才木の言う“気持ち”と“力”で3つのアウトをもぎ取った。
「(ロッテも)ずっとサヨナラ勝ちしてきてるし、延長とかで勝ってきてる。先頭出た時にちょっと嫌な雰囲気はありましたけど。でも全然普通にというか。ファンの方もすごい声援をくれたんで。すごいやりやすかったというか、応援が力になりましたね」
重圧とは無縁の25歳は“さらっと”勝敗の分岐点を振り返った。
再び岡田監督の言葉を借りよう。「何回目やこれ。あいつが止めたのは」。今季だけで3度目の“連敗ストッパー”となった才木を称えるフレーズには今やローテーションの軸となっている右腕への高い信頼がうかがえた。
敵地でのお立ち台では「うぇーい」「オーマイガー」など、ありのままの言葉で快投にいたった場面の1つ1つを表現。試合前の時点で5連敗中だったチームの重苦しさもどこ吹く風の若虎。ひょうひょうと、でも着実に、エースへの階段を上がっている。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)