高卒5年目でレギュラー獲得のチャンス到来
チーム創設20年目にして初の交流戦優勝を果たした楽天。首位ソフトバンクを追撃する態勢は整ったかに思われたが、リーグ戦再開後は一転、2勝5敗1分と苦しんでいる。
苦戦している要因の一つが直近5試合で7得点しか挙げられていない打撃陣の低迷だ。安打は出ているものの、チャンスで凡退を繰り返す場面が定型化している。
そんな楽天打線に救世主となり得る存在が現れた。先月26日に一軍昇格を果たした内野手の黒川史陽である。
高卒5年目を迎えた黒川は、オープン戦で打率1割台に低迷。開幕一軍を逃していた。二軍でも打率.271、1本塁打と、一軍昇格にはワンパンチ足りない成績。しかし、出塁率.386の粘り強さと、得点圏打率.357の勝負強さが認められ、6月下旬にしてようやくチャンスを与えられた。
黒川にとって約1年ぶりとなった一軍舞台だが、そう甘くはなかった。昇格した26日のロッテ戦で即スタメン起用されたものの、3打数無安打。続く28日の西武戦も4タコに終わり、早くも一軍滞在に黄信号がともった。
しかし、今江敏晃監督は辛抱強く黒川をスタメンで起用。29日の西武戦も2打席目まで凡退していたが、3打席目に初安打を放つと、小郷裕哉の一発で今季初得点をマークした。
待望の“一本”が出て流れが変わったか、黒川は30日に快打を連発。連敗中のチームを救うこととなる。
9番セカンドで4試合連続のスタメン出場を果たした黒川は、先頭打者として打席に立った3回裏に四球を選んで出塁。その後、辰己涼介の犠飛で同点のホームを踏んだ。
さらに5回の2打席目にライトへ、7回の3打席目にはレフトへ安打を放ち、2022年5月以来となる複数安打を記録した。7回に代走を送られ、お役御免となったが、代走の小深田大翔が決勝のホームインを踏み、チームは2-1で逃げ切り勝ち。黒川はチームの連敗を4で止める立役者の一人となった。
チームの2得点を創出する形となった黒川だが、次に狙うは今季の初打点だろう。実は、得点圏の場面では、黒川の登場曲としてあの曲が流れている。
自身の出身校、智弁和歌山の応援曲でお馴染み「ジョックロック」である。
甲子園の名門校が2000年頃から演奏しはじめたという「ジョックロック」。試合終盤にこの曲がスタンドから流れると、相手チームは異様な雰囲気にのみこまれ、智弁和歌山が数々の逆転劇を演じてきた。いつしか高校野球ファンの間では“魔曲”として定着している。
黒川自身も高校時代に甲子園でこの曲の後押しを受けて大活躍。“魔曲の申し子”とまで呼ばれたほどだ。プロの世界でも魔曲の力を借りて、上位進出を狙うチームに貢献したいところ。その先には念願のレギュラー奪取が待っている。
文=八木遊(やぎ・ゆう)