「スタメンでも、スタメンじゃなくてもやることは変わらずにやっています」
「エブリデープレイヤー」としての喜びも、苦しみも噛みしめる日々を送っている。
タイガースの小幡竜平が連日スターティングメンバーに名を連ねるようになったのは交流戦最終盤からだった。
昨季の正遊撃手である木浪聖也が15日のホークス戦で左肩付近に死球を受け、左肩甲骨骨折で無念の離脱。昨季開幕スタメンを務め、ずっと出番を争ってきた小幡にチャンスが巡ってきた形だ。
「出番が増えるかなと思って、そこで準備するだけだと思っていました。スタメンでも、スタメンじゃなくてもやることは変わらずにやっています」
普段から感情の浮き沈みを表に出さない男らしく、自身の出場機会に関わる大きな出来事も冷静に受け止めて翌日からも歩みを変えることなくグラウンドの土を踏んでいた。
歓喜のシャワーを浴びたのは8番・遊撃で出場した21日のベイスターズ戦。スコアレスで迎えた9回二死一・二塁の好機でやってきた第4打席にローワン・ウィックの150キロのカットボールを捉えた。鋭く一・二塁間を抜ける右前適時打。
キャリア2度目の“サヨナラ男”となった背番号38のユニホームがチームメートからのウォーターシャワーでびしょ濡れになるのに時間はかからなかった。
「まっすぐが多めのピッチャーだったので、しっかり振り負けないようにいきました」
失点には繋がらなかったものの、3回の守備では打球をファンブルする失策を犯していた。ミスを取り返すチャンスが同じ試合に残されているのが先発出場する選手の“特権”。最後の打席でチームの勝利をたぐり寄せ「(自分で)決めたいというのは強かった」と力強くうなずいた。
一方で、29日のスワローズ戦では唇をかんで球場を後にしている。3点劣勢の3回一死一、二塁でオスナの二ゴロを処理し併殺を狙った中野の送球を二塁ベースカバーに入った際に取り損ねる痛恨の失策。立ち直りかけていた先発・伊藤将司はそこから3連打を浴びて降板した。
「捕れる…捕るべきでした。将司さんに申し訳ないなと思います。しっかりまた明日からやりたいです」
悔しさをぐっと胸に押し込めるように、言葉をつないでいた。と同時に見据えたのは、待ってはくれない“明日なる戦い”に他ならない。
毎試合出場することで体に蓄積されていく疲労もきっと今までとは違うはずだ。その背にかかるプレッシャーも大きい。
結果を積み重ねていく中でレギュラーの壁を必死に駆け上がっている23歳。喜びも痛みも、すべてを推進力に変えなければいけない。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)