野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第42回:『パワフルプロ野球2024-2025』
最後に野球ゲームを買ったのいつ?
飲み会でそんな話題になると、「9歳の誕生日に買ってもらったパワプロ2000 で放課後にクラスメイトと大会やってました」とか、「ファミスタ89はそれまでの年末じゃなく7月末の発売で兄貴と夏休みに対戦しまくってさ」なんて妙にその場が盛り上がる。
あの頃、野球ゲームは男同士のコミュニケーションツールだった。だが、社会人になりスマホアプリを触る程度、家では子ども相手にマリオカートをたまにやるくらいで、野球ゲームを買うという行為から久しく遠ざかっている人も多いかも知れない。そんな30代・40代の元ベースボールゲーマーにこそオススメのソフトが、『パワフルプロ野球2024-2025』(コナミ)である。
7月18日にPS4とSwitchで発売されたシリーズ30周年記念作品は、とにかく「歴史」にこだわっている。過去作のスーファミ版からのタイトルアートが一気に見られるのも懐かしいし、パワプロ2010のサクセスモード12球団編の復活も往年のパワプロファンには嬉しいわけだが、最大のサプライズはシリーズ最多となる400名以上のレジェンド選手の登場だ。
既存の12球団のOBチームに加えて、阪急ブレーブス、南海ホークス、大阪近鉄バファローズが収録され、なんと今はもう存在しない阪急西宮球場と大阪スタヂアムも開発陣の執念で再現されているのだ!……とオールドファンのテンション爆上げ仕様となっている。
もちろん3Dスキャンができない時代の昭和ノスタルジー溢れる球場でも、「現存している映像や資料写真を目で見て、昔と同じように手で作りました。幸いにも、『パワプロ』チームにはそのころの作りかたでやっている開発スタッフもいますから」(ファミ通2024年8月1日号)という匠の技で形にしたという。
大阪スタヂアムで復活する杉浦忠と野村克也の南海黄金バッテリー。西宮球場のレフトスタンドへブーマーの特大ホームランをかっ飛ばすと、懐かしさのあまり、ブーマーの伝説のテレビCM「パ、パ、パスタイム、クダサイッ!」じゃなくて、「ハンキューベリマッチね」と思わず呟いてしまう悲しい性。そして、レジェンドチーム同士の対戦がまた涙腺を刺激する。甲子園で蘇る、江川卓と掛布雅之が対峙する伝統の一戦。日本ハムのダルビッシュ有と中日の落合博満(落合は三冠王を獲得した絶頂期のロッテ時代データも収録されている)。令和の怪物・佐々木朗希と平成の安打製造機・イチローといった時空を超えた夢の対決も再現できてしまう。もちろん、日本ハムのクラシックユニを着た大谷翔平も二刀流で操作することができる。
なにより、世代的に球場でプレーを見ることができず、後追いの雑誌やモノクロ映像でしか確認したことがない名選手を操作することで、彼らがどれくらい凄かったのかリアルに体験できてしまう。シーズン55本塁打を放ったパワーS(94)を誇る23歳王貞治の美しき一本足打法。31勝を挙げた24歳金田正一のスタミナS(97)のタフさに異様な曲がり方をするドロップカーブ。ちなみに投手史上最多の通算38本塁打を放った金田は「弾道3、パワーD(51)」と打てる投手仕様だが、もし生前のカネやんが見ていたら「ワシはパワーSやで。通算8度も敬遠されとるんや」と怒られること必至だ。
そんな昭和・平成のレジェンド選手を懐かしむだけではなく、彼らとともにOBチームでプレーをする令和のトッププレーヤーたちの力も侮れない。若松勉やペタジーニがいるヤクルトで堂々と四番を張る村上宗隆。巨人V9メンバーを押しのけ長嶋茂雄と三遊間を組むショート坂本勇人。過去をリスペクトするなら、同じく今もリスペクトしなければフェアじゃない。そういう開発陣のスタンスも見て取れる。
熱狂的マニアになると、なんであの選手が収録されていないのかとか、所属時期的にこのデザインのユニフォームは着ていないはずとか、野茂英雄のトルネード投法を見たかったとか、今回は実現しなかった「秋山・清原・デストラーデ」のAKD砲は私の青春のすべてでしたとか細かい突っ込みどころはあるかもしれない。「パワフェス」や「栄冠ナイン」目当てのユーザーからは、ゲームとして頑張るところが違うとディスられるかもしれない。
それでも、令和に西宮球場で「鈴木啓示vs.ブーマー」を実現させてくれてありがとう……いや阪急ベリーマッチねとコントローラー片手に涙をにじませながら、仕事と家庭の二刀流で戦う元ベースボールゲーマーの中年男性たちに、このパワプロ30周年記念作品を捧げたいのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)