白球つれづれ2024・第30回
岡田阪神が、いよいよ正念場を迎えている。
16日からの中日3連戦に、よもやの1分け連敗。その前の巨人戦を含めると3連敗で首位を行く広島から5ゲーム差と離されてしまった。(記録は19日現在、以下同じ)
虎党には、何とも厳しい数字が目の前にある。
昨年は85勝53敗5分けで“アレ”を達成したが、今季は111試合を消化した時点で54勝51敗6分け。つまりリーグ連覇を睨んだ時、残り32試合で31勝を記録しないと前年と同等の位置にたどり着けない。
だが、今年のペナントレースは昨年以上の混戦模様。優勝ラインを75勝まで大幅に引き下げてみる。それでも残り39試合の広島は19勝20敗、同じく残り34試合の2位・巨人は18勝16敗で目標ラインに到達するが、阪神はここでも21勝11敗が必要となる。
ちなみに昨年の猛虎軍団は8月に入って10連勝と6連勝を記録すると9月1日から11連勝を上げて一気に勝負を決めた。ところが今季の8月は6勝9敗とズルズル後退している。チームの勢いも含めると、現時点の5ゲーム差はデッドラインと言ってもおかしくない。
今月18日、出場選手登録から村上頌樹投手が抹消された。これをもって一部には「終戦」の声も聞こえる。
昨年の新人王でMVP。すい星のごとく現れた右腕は10勝(6敗)をマーク。現役ドラフトでソフトバンクから移籍した大竹耕太郎投手が12勝2敗。新戦力の2人で22勝8敗と大きな貯金をもたらして、優勝の原動力となった。それが今季は2人で12勝14敗。特に村上は輝きを失って5勝8敗と不振にあえいでいる。二軍での再調整は後々のクライマックスシリーズまで睨んだ戦略と見る向きもある。
誤算だらけのチーム事情では指揮官の浮上プランもメドが立たない
笛吹けど、兵は躍らず。昨年は流行語大賞にも輝いたほど、岡田彰布監督の“語録”は話題をさらった。しかし、今年は独特の「岡田節」も湿りがちである。
「走れ、言うても走らんし、走ったら空振りするし。点なんか入るわけない!」
(6月14日対ソフトバンク交流戦に拙攻貧打で敗戦後)
「どんだけ、ミスしてんの?」
(7月16日の巨人戦。才木浩人投手が好投も接戦を落として)
「なんか伝わって来んわな。俺一人で怒ってるみたいやけど」
(8月18日中日戦後、4失点の伊藤将司投手にあきれ顔で)
指揮官にはいくつかのタイプがある。広島の新井貴浩監督のように選手の批判は口にせず、前を向くタイプもいれば、努めて冷静を装いながら理路整然と報道陣に対応する指揮官もいる。そして岡田監督は歯に衣着せずに感情を出すタイプ。かつての名将・野村克也氏の“ぼやき節”に相通じるところがある。野球眼が鋭い分、その物言いは容赦がない。
佐藤輝明、大山悠輔、森下翔太らの主力選手も不振で二軍調整を命じる。打線の編成に頭を悩まし、切り込み隊長の近本光司選手に4番を任したこともある。
才木浩人投手や前川右京選手ら若手の成長もあるが、それ以上に誤算だらけのチーム事情では指揮官の浮上プランもメドが立たない。
球団の信頼度は揺るぎないが、監督就任時から二年を一つの区切りと考えている。加えて、今季は「疲れる」のフレーズが良く聞かれると証言する関係者もいる。
昨年は18年ぶりのリーグ優勝から一気に日本一へ駆け上がった。そして今季は本拠地・甲子園の100周年。現状は厳しくても、このままズルズルと後退するわけにはいかない。
岡田監督に晴れやかな笑顔は戻るのか?虎党はいつだって奇跡を信じている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)