“一人一殺”の伝家の宝刀を抜くも巨人・阿部監督の落ち着いた采配に敗れる…4位DeNAとの3位争いが現実的な目標に
セ・リーグの優勝争いは、2チームに絞られたと言ってもいいかもしれない。
台風10号に振り回される格好となった先週のプロ野球。特にセ・リーグ3位につける阪神にとって、日曜日の敗戦は痛恨と呼べるものだった。
先週木曜日のDeNA戦と、金曜日の巨人戦の2試合が中止となった阪神。久々に本拠地・甲子園球場で行われた土曜日の巨人戦を4-2で制し、優勝争いに食らいつくべく2連勝を目論んで、日曜日の一戦に臨んだ。
ところが、結果は7回裏終了時点で降雨コールド。1-3で、巨人に逆転負けを喫すると、試合後の岡田彰布監督からは恨み節が飛び出した。
「しゃべる気にもならん、消化試合ちゃうんやから」
重要な巨人との直接対決を降雨コールドという中途半端な形で落とし、苛立ちを隠せなかった岡田監督。「3試合中止にしてるところもあるのに」と、台風で中止となった中日-DeNAの3連戦を引き合いに出して、試合開催の判断を下した連盟を暗に批判した。
ただ、この日の試合は開始した時間帯に雨は降っておらず、実際に試合が成立したことからも連盟の判断は間違いではなかったといえるだろう。
徐々に雨脚が強まりつつあった5回を終えた時点で1-1の同点。両ベンチともに“コールド”を見据えながらの戦いだったに違いない。
そんな中、試合の明暗を分けたのは、結果的に最終回となった7回表裏の攻防だった。
7回表の巨人は先頭の大城卓三が一塁に出塁すると、次打者の吉川尚輝が三塁線へ犠打を転がした。ところが阪神の三塁手・佐藤輝明が痛恨の悪送球で、局面は無死一、三塁へと変化。ここで門脇誠のタイムリーで巨人が勝ち越すと、続く小林誠司のセーフティースクイズが佐藤輝のフィルダースチョイスを誘い、巨人はこのイニング2点目を奪った。
ここで負けじと岡田監督も奇策に打って出る。無死一、二塁の場面で9番・菅野智之がスリーバントに失敗すると、先発・西勇輝を降ろし、桐敷拓馬をマウンドへ。その桐敷が丸佳浩を打ち取ると、すかさず石井大智の名前を告げた。雨脚が強まり、コールドの4文字が脳裏にちらつく中、岡田監督が見せた必死の抵抗だった。
巨人が7回表に勝ち越したとはいえ、7回裏の阪神の攻撃が終わらなければ、前の回に遡って勝敗が決定するため、ルール上は1-1の引き分けということになる。
敢えて2点のリードを奪われた場面で“一人一殺”の伝家の宝刀を抜いたのは、少なからず引き分け狙いの意図もあったはずだ。
一方で、巨人の阿部慎之助監督は“ルーキー”とは思えぬ落ち着いた采配で対抗した。7回表に守備に不安のある佐藤輝を狙いすましたバント攻撃も然ることながら、100球に迫っていた「頭脳派」菅野智之を7回裏も続投させたことも吉と出た。
菅野は一死から代打・島田海吏に粘られた挙句、8球目に安打を許したが、近本光司を併殺打に仕留め7回を投げ切った。その直後に試合が中断に入ると、約20分後に降雨コールドゲームが宣告された。
幸先よく初回に先制しながら逆転負けを喫した阪神。これで首位・広島と5.5ゲーム、2位巨人とは5ゲーム差に広がった。
ふりむけば、1.5ゲーム差の4位にDeNAがいる状況で、もはや3位争いが現実的な目標となりつつある。
台風一過の火曜日からは甲子園で5位中日との3連戦が控えている。もしここで3タテを食らうようなら、中日との差は4.5ゲームに縮まってしまう。1週間後には「ふりむけばヨコハマ」、もとい「ふりむけば中日」という事態に陥っていてもおかしくない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)