白球つれづれ2024・第32回
こういう試合を「踏んだり蹴ったり」と言うのだろう。
岡田阪神が首位戦線追撃を狙う勝負の巨人戦を1勝1敗で引き分けた。
高校野球に明け渡していた本拠地・甲子園に戻って8月31日から伝統の一戦。初戦は敗色濃厚の6回に佐藤輝明選手が起死回生の逆転11号3ラン。ここ一番の舞台に主役が躍り、2位の巨人とは4ゲーム差。甲子園は大歓声に揺れた。
追撃態勢が整った翌9月1日の第2戦は台風10号の影響で雨模様の中でプレーボール。ところが前夜のヒーローが今度はゲームをぶち壊してしまった。
同点で迎えた7回。巨人が三塁・佐藤輝を狙ってバント攻撃を仕掛ける。
無死一塁から吉川尚輝がバントを転がすと、捕球した佐藤輝が一塁へ悪送球。続く門脇誠もバントで揺さぶりをかけるが失敗に終わり、強打策に転じてタイムリー。さらに小林誠司もスクイズを三塁前に決め、佐藤輝が本塁へ投げるも野選となり、致命的な2失点が記録された。
その裏の攻撃終了後に降雨コールドが宣告された。巨人とは再び5差、首位の広島とは5.5ゲーム差。
試合後の岡田彰布監督は「しゃべる気にもならん」と吐き捨てた。天のいたずらに振り回された後味の悪い敗戦に加え、とりわけ自己ワーストとなる21個目の失策を犯した佐藤輝の拙守にはらわたが煮えくり返っていたに違いない。
「4」→「12」→「20」→「21」。これが佐藤輝の入団後の年度別失策数だ。
1、2年目は試合出場数が少ない上に、外野手としての起用が多かったので、そこまで目立たなかったが、岡田監督誕生と同時に三塁へ本格コンバート。多少の守備の拙さには目をつぶっても、三塁・佐藤輝、一塁・大山悠輔は“阪神版-ON”を作り上げようとする球団の目玉企画でもあった。
自主トレ、キャンプからシーズンに入っても守備特訓は続いている。だが結果には結びつかず121試合時点で昨年の失策数を上回ってしまった。
今季の佐藤輝は春先から打撃不振に苦しみ、5月には二軍調整を命じられている。その後に一軍復帰後も先発メンバーから外されるなど、打棒の不調が守備にも悪影響を及ぼした側面もあるのだろう。
昨年は佐藤輝が守備のミスをしても、チームは勝ち続けたから、問題はそこまで大きくはならなかった。だが、今季は追いかけるチーム状態にあって、一つのミスが優勝争いに直結する。敗因を根掘り葉掘り報じられるのも人気球団の宿命だ。
あり余る素材の良さと、危なげなもろさを併せ持つ未完の大器
巨人戦に突入する直前の先月30日。佐藤輝は守備練習の際、同じ三塁を守ることもある熊谷敬宥選手の下に“弟子入り”している。
細かい内容については、口を閉ざしたがアドバイスを受けたポイントは大きく二つ。一つ目は捕球から送球する際に慌てて投げていないか? そして二つ目は上半身と下半身のバランスが、ステップして送球する時に崩れていると悪送球になりやすいという指摘だ。
佐藤輝の場合、打撃でも上半身が強いため、下半身の動きが緩慢に見える時がある。守備になると、さらに上下の動きが下半身から始めないとミスのもとにつながりやすい。
今季の残り試合で急に守備が上手くなるはずはない。チームにとって選択肢は二つ。この秋季キャンプから、これまで以上の守備特訓を課すか、三塁固定を一度白紙に戻して、外野に再コンバート。外国人や若手有望株にホットコーナーを託して、チーム全体の守備力強化を図るかだ。
ヒーローから一転して戦犯。快晴から土砂降りの台風。佐藤輝と言う男はあり余る素材の良さと、危なげなもろさを併せ持つ未完の大器である。
「言い訳に出来ないので、練習します」と巨人戦後に語った。
昨年の9月は1日から怒涛の11連勝で一気に18年ぶりのリーグ優勝を決めている。同月に打ちまくった佐藤輝は月間MVPも受賞している。
今、岡田阪神に欲しいのは昨年並みの大型連勝だ。
もう、拙い守備には目をつぶろう。その分を佐藤輝はバットで輝くしかない。
今週は甲子園で中日と3連戦、神宮でヤクルト戦が控える。両チームには大きく勝ち越して相性もいい。上位に肉薄して、奇跡を起こすならチャンスは限られる。もはや、待ったなしの秋である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)