最も幸運なメジャーリーガー
ア・リーグ中地区に“異変”が起きたのはちょうど1週間前の8月28日(日本時間29日)だった。
ホワイトソックスの“一人負け”が頻繁に話題となるこの地区で、4月中旬から首位の座を守ってきたのはガーディアンズだ。
6月下旬には2位以下に最大9ゲームの差をつけていたガーディアンズ。その後も順調に白星を重ね、7月を終えた時点でも2位とは6.5ゲーム差あった。
2年ぶりの地区優勝に向けて大きな死角はないと思われたが、8月上旬に7連敗を喫するなど、2位以下との差が一気に凝縮。8月下旬にロイヤルズ相手に3連敗を喫し、ガーディアンズとロイヤルズがついに同率で首位に並んだ。
しかし、両者が並んだ翌日の28日、勝ったチームが単独首位に立つ直接対決4連戦の最終戦。意地を見せたのはガーディアンズだった。試合はロイヤルズが3点をリードする展開だったが、ガーディアンズの打線が終盤につながり逆転勝利。ガーディアンズがロイヤルズの勢いを止めることに成功した。
ガーディアンズはその直後のパイレーツとの3連戦を2勝1敗と勝ち越し。その一方で、ロイヤルズはアストロズとの4連戦でスイープ負けを喫してしまう。
さらに2日に始まった両者による3連戦は、ガーディアンズが力を見せて2連勝。4日に行われる今季最後の直接対決でガーディアンズが勝てば、両者の差は6.5ゲームに開いてしまう。
首位に並んだ途端に7連敗を喫したロイヤルズにとってはまさに思いがけない転落劇といえるだろう。先月31日にはトミー・ファム、ロビー・グロスマン、ユリ・グリエルという百戦錬磨のベテラン野手3人を緊急補強。ポストシーズンを見据えて、大きな賭けに出ていたからだ。
補強の甲斐なく首位ガーディアンズとの差は広がる一方のロイヤルズは、ツインズにも抜かれて現在は地区3位に甘んじている。
ただ、ワイルドカード争いでは次点のレッドソックスとタイガースに4.5ゲーム差をつけて第6シードの座を確保。4日のガーディアンズ戦で一矢報いることができれば、再びポストシーズン進出も近づいてくるはずだ。
そんなロイヤルズにとって、ポストシーズンでカギを握っている選手がいる。それは、新戦力の3人でもなければ、チームの顔ボビー・ウィットJr.でもない。今季45試合に登板しているリリーフ左腕のウィル・スミスである。
スミスは、21年にブレーブス、22年にアストロズ、23年はレンジャーズに所属しており、異なる3つのチームで世界一に輝いた“最も幸運なメジャーリーガー”だ。
ただ、11年ぶりに古巣復帰を果たした今季は、ここまで防御率6.53と不振に陥っている。さらに先月下旬には腰痛を発症し、15日間の負傷者リストに入ってしまった。2015年以来の世界一を狙うロイヤルズにとって、スミスの一日も早い復帰が特効薬となるかもしれない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)