白球つれづれ2024・第34回
ペナントレースの大詰めと同時に、ドラフトの季節がやって来る。
クライマックス・シリーズの準備に忙しい球団もあれば、優勝争いから脱落したチームは、来季に向けた人員整理も始まっている。いずれにせよ、年間で最も慌ただしい時期である。
10月24日に開催される今年のドラフト会議。
早くから、攻守走三拍子揃った大型遊撃手として宗山塁選手(明治大)や即戦力左腕の呼び声高い金丸夢斗投手(関西大)らの名前があがってきたが、ここへ来て以外な“大物”が名乗りを挙げて話題を呼んでいる。慶応大の清原正吾選手が12日にしプロ志望届を提出たことを明らかにしたのだ。
父親はご存知、清原和博氏。PL学園の怪童として甲子園でヒーローになると、39年前のドラフトでは6球団競合の末に西武入団。当時、巨人入りを熱望したが、その巨人がチームメイトである桑田真澄投手を1位指名して、涙にくれた。
その後は稀代の長距離砲として通算525本塁打を記録。巨人、オリックスを渡り歩いて現役生活を終えた。
一方で清原氏には現役引退後、覚醒剤使用の罪で逮捕された過去がある。その後も長く苦しい更生の日々が続いている。一時は一家離散とも騒がれた。
こうした家庭環境もあってか、正吾は中学、高校と野球を離れてバレーボールやアメリカンフットボールに汗を流している。偉大な父と、横道にそれてしまった父。様々な思いが交錯する中で、最後は大好きな野球に戻ると大学から新たな挑戦が始まった。
全国でも屈指の強豪であり、伝統を誇る名門校に、ほとんど門外漢が入部するのだから、その苦労は並大抵ではない。ひとりだけ練習についていけず、おまけに「あの清原ジュニア」のレッテルだけが独り歩きする。
それでも「バットを振る量は誰よりも多かった」と慶応大の堀井哲也監督が振り返るように、人一倍の練習量でブランクを埋める。今春の六大学リーグで一塁のレギュラーの座を掴むとシーズンのベストナインに選出されるまでに成長した。
プロの目をくぎ付けにしたのは8月31日に北海道で行われた東京六大学選抜と日本ハム二軍との練習試合だった。日ハムの育成左腕・山本塁投手から左翼スタンドに豪快な一発を叩き込む。父譲りの非凡な長打力がプロの目にもとまった。
プロ入りの進路表明を前に、何度も開かれたと言う家族会議では激し意見をぶつけ合ったと言う。
「アツくなる時もあった。不安だらけでぶつかり合ったりもした」と語ったが、最後は「正吾の人生。正吾の意見を一番に尊重する」と父が認めてくれた。
未完の大器をどの球団が指名するのか?
慶大の4番にして、清原ブランド。おまけに甘いマスクにスター性も感じる。だが、プロのドラフトでどこまで評価されるのか?は未知数だ。
「まだ粗削りのところはあるし、上位指名かと尋ねられたら首をかしげる部分はある。でも彼のキャリアを考えたら、伸びしろはまだまだある。この秋のシーズンの働きが重要になって来る」(某在京球団スカウト)
では、この未完の大器をどの球団が指名するのか? 独断で占ってみよう。
第一候補は立浪和義監督が来季も指揮を執ることを条件に中日が浮上する。父の和博氏とはPL時代の先輩後輩で、キャンプからシーズン中も中日戦には姿を見せている。将来の大砲候補も補強ポイントと一致する。
父の古巣・西武が指名してもおかしくない。記録的な最下位で抜本から出直しが迫られるチームにあって、スターも欲しい。大砲も欲しい。話題性や人気面も考えれば清原ブランドは捨てがたい。
さらに日本ハム・新庄剛志監督は「男前で、いい打撃もしている」と高評価。他にも正木智也、柳町達選手ら慶応大出身OBの多いソフトバンクの名も浮かぶ。
「父親の息子で生まれてきた以上、その使命を請け負いながら生きていく」と正吾は語った。
長嶋茂雄と一茂。野村克也と克則。二世がスーパースターだった父親を越していくことは難しい。それでも清原ジュニアは未知の領域に突き進む。
「10.24」新たな清原物語の幕が開く。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)