育成降格から這い上がった若虎2人が一軍デビュー
タイガースにとってレギュラーシーズンでの甲子園最終戦となった9月30日のベイスターズ戦は、シーズン2位が確定して迎えた、いわゆる「消化試合」だったが、それでも待望の一軍デビューを果たした若虎たちにとってはこれ以上ないアピールの場だった。
7回から3番手で登板したのは、4年目の佐藤蓮。22年に育成に降格しながら今年7月に支配下に返り咲いた豪腕は持ち味を遺憾なく発揮した。
先頭の代打・東妻純平には初球の151キロが頭部付近に抜けたものの、その後は修正し8球目の153キロ直球で遊ゴロ。さらに梶原をフォークで空振り三振に斬ると、球界屈指の右打者である牧秀吾も153キロの直球で詰まらせて遊ゴロと3者凡退で堂々のデビューを飾った。
「いきなり球が抜けた。緊張していたんですけど、なんとか1人目のアウトが取れて、2人目からは落ち着いて投げられた」
本人は反省に挙げた「荒れ球」を逆に評価したのが岡田彰布監督だった。
「暴れそうで暴れないというな。そういうの武器かもわからんし」
左手にはめていたのは、この日の試合前に行われた「ファイナルピッチ」で15年間の現役生活に幕を下ろした秋山拓巳のグラブ。公私でお世話になった先輩の思いも受け継ぐように、白球に力を込めた。
一軍で中軸を担う佐藤輝明らとともに20年ドラフトで入団し、同期メンバーでは最後の一軍デビュー。ようやく仲間に追いついた右腕は「輝(佐藤輝明)だったり将司さん(伊藤将司)だったり、頌樹(村上頌樹)もそうですけど、一軍で活躍している中でずっと一緒にやりたいなと思いながらこの4年間やってきたので嬉しかったです」と声を弾ませた。
そして、佐藤からバトンを受け取って8回に登板したのが高卒6年目の川原陸。佐藤と同じく育成降格から今年7月に支配下に復帰した左腕は2人の走者を背負いながら左打者2人からアウトを奪い、最後は桑原将志を内角144キロの直球で見逃し三振に斬った。
「緊張するかなと思ったけど、自分のボールが投げられた。それが一番良かった」
4万人超えの大観衆の空気にものまれることなく腕を振り切って3つのアウトを奪取した姿に岡田監督も「最後の球はな、インコース投げ込めたのは良かったと思うよ。思った以上に落ち着いとったよな、初登板でな」と目を細めた。
長崎県出身ということもあり、数年前には当時の平田勝男二軍監督に「ダメだったら長崎に帰ってちゃんぽん屋やれ」と独特の表現で叱咤されたこともある。「やっとという感じ。凄い時間はかかりましたけど、良かった」とようやくたどり着いた一軍マウンドを噛みしめた。
佐藤、川原ともにポストシーズンで起用される可能性は低いものの、デビュー戦で示したポテンシャルはきっと2025年に繋がっていく。育成上がりの2人が苦労しながら競争のスタートラインに立った。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)