白球つれづれ2024・第37回
オリックスの中嶋聡監督が電撃辞任した。
6日の楽天戦終了後、仙台の宿舎で選手、コーチら関係者に今季限りの退団を伝えたもの。これまでは来季も続投の方針と伝えられていたのでまさに寝耳に水の発表だった。
20年シーズン途中に監督代行として指揮をとり始めると、翌21年から昨年までリーグ3連覇の偉業を成し遂げた。
山本由伸(現ドジャース)、宮城大弥らを中心とした鉄壁の投手力に、捕手出身の中嶋監督らしいソツのない野球で黄金期を築いたが、今季は大黒柱だった山本のメジャー挑戦に加えて、故障者も続出。とりわけ打撃陣の不振に悩まされた。
全日程を終了すると63勝77敗3分けの5位。24度の完封負けは球団ワーストタイ。前年までに3連覇以上したチームが5位以下に沈むのは史上初の屈辱となった。
「優勝していたチームが、ここまで落ちると言うことの責任をとりたい」と語る中嶋監督に対して、球団側でも度重なる慰留の話し合いを持ったが、指揮官の頑固さは最後まで変わらなかったと言う。
通常、監督が勇退する場合は、球団内で密かに後任選びに着手するものだが、現時点では新監督の名前が浮かんでこない。7日には中嶋政権下で外野守備・走塁コーチとして貢献してきた田口壮氏らが退団。球団では内部昇格を軸に後任の人選を進めていると見られるが、前任者の実績が華々しいだけに、それに代わる適任者探しとなれば悩ましいところだ。
中嶋監督が電撃辞任を発表するよりも数時間前には阪神の岡田彰布監督も甲子園練習の前に選手らを集めて今季限りの退任を明らかにした。
こちらの人事が表面化したのは今月初旬のこと。2年連続のリーグ優勝は絶望的になった時、かねてから2年契約の最終年で、本人も健康上の理由から親しい知人らには今季限りの勇退をほのめかしていた。
だが、リーグ2位で12日からのクライマックスシリーズ(対DeNA)に臨むチームは戦い次第では、まだ日本一の可能性も残されている。岡田監督とすれば、大きな区切りがついた時点で自身の進退問題を語りたかったはずだが、マスコミ報道が過熱するばかりでは、何らかのけじめが必要となっていた。そこで「最後に日本一を目指そう」と、この日の退任表明となった訳だ。
1年前に合同優勝パレードを行った2人の名将が退任
現役最年長66歳の指揮官は、昨年15年ぶりに古巣の監督に戻ると、あっという間に日本一の頂点に立った。38年ぶりの偉業達成に虎党は狂喜乱舞した。
“アレンパ”を狙う今季は投打の歯車がかみ合わず苦戦の連続。一時は大山悠輔、佐藤輝明、森下翔太の若きクリーンアップを交互にファームで鍛え直すなど岡田監督ならではの荒療治でチームを建て直し、最後まで巨人と優勝争いを繰り広げている。優勝、2位なら辞める理由は見当たらないが、老将には肉体的に厳しい2年間だったのだろう。
もっとも、過去の監督人事ではお家騒動がついて回った球団だけに、今回の岡田退陣劇にも、別の理由をつけて騒ぐ向きもある。
阪急阪神ホールディングが誕生した時、球団は阪神の専権事項と密約が交わされたとされている。だが岡田監督就任時には阪急出身の角和夫同ホールディング会長の強力な推薦があった。それだけに岡田退陣となれば阪神側が再び主導権を握り返し、次期監督として藤川球児SA(球団付スペシャルアシスタント)を押している。この球団ならではのゴタゴタが再燃しなければと願うばかりだ。
球界のご意見番として知られる広岡達朗氏(元巨人OB、西武監督)は「まだ監督は務まる」としたうえで「もし、親会社の事情で人事をやっていたら、いつまで経ってもチームは強くならない」と警鐘を鳴らしている。常勝軍団を築き上げた元名将の一言だけに傾聴に値する。
今季は中嶋、岡田監督以外にも、中日・立浪和義監督が3年連続最下位の責任をとって辞職。西武では記録的大敗に松井稼頭央監督が5月に休養。後を継いだ渡辺久信GM兼監督代行もチーム浮上はならず、今季限りの辞任を決意している。
かつて、西武黄金期のエースから球団幹部に上り詰めた男や「ミスタードラゴンズ」としてファンに愛された男も勝負の世界では、負即退場。
中嶋と岡田は、1年前セパ両リーグの優勝チームとして、大阪の御堂筋から神戸まで合同優勝パレードを行った。それからわずか1年で名将たちはユニホームを脱ぐ。
だが、ある意味では余力を残して、惜しまれつつ去っていく野球人は少ない。
人事の秋。ここにもそれぞれの人間ドラマがある。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)