白球つれづれ2024・第38回
野球界は日米ともに“ヒリヒリした季節”を迎えている。
日本ではクライマックスシリーズがファイナルを迎え、26日から日本シリーズに突入する。
並行する形で24日にはドラフト会議も行われる。明治大・宗山塁選手や関西大・金丸夢斗投手ら金の卵がどの球団に入団するのか?ファンの注目が集まる。
だが、そんなドラフトに目もくれず、メジャー一直線の若者がいる。東京の桐朋高校に在籍する森井翔太郎選手だ。
全国的には全く無名だが、日米のプロ関係者から熱視線を送られる17歳。本職は内野手だが、投げては最速153キロの快速球操り、高校通算45本塁打の二刀流である。経歴だけを見れば「大谷二世」と呼びたいところだが、まだまだ無名で未知数の有望株。それでも早くからメジャー志望を表明したこともあり、すでにドジャースが複数回の入団交渉を行うなど10球団ほどのメジャー球団がマイナー契約に感心を寄せていると言う。本人もまずはマイナーで腕を磨き、将来的にはメジャーでの活躍を夢見ている。
過去にもNPBを経ずに海を渡った高校球児はいる。
1997年には奈良・天理高の川畑健一郎選手がレッドソックスと、2002年には横浜商の山口鉄也投手がダイヤモンドバックスと契約。この山口はその後、巨人に移籍して活躍、現在は同球団の二軍投手コーチとして若手育成に尽力している。昨年には茨城・常総学院のバルザー・ジョセフ・ブライアン投手がパドレスと契約している。
また、メジャーではないが高校通算140本塁打の記録を作った花巻東の佐々木麟太郎選手は日本のドラフトに目もくれず、今春から米国のスタンフォード大学に入学。母校の先輩・大谷翔平選手のあとを追っている。かつては雲の上の存在だったメジャー行きも、今では手の届く目標となっているようだ。
若者だけではない。このオフは巨人の大エースである菅野智之投手や中日の小笠原慎之助投手がメジャー挑戦を表明。さらに佐々木朗希投手(ロッテ)や岡本和真選手(巨人)らの動向も注目を集めている。その他の“予備軍”も含めれば10選手は下らない。
近年、大谷の活躍やドジャース移籍も手伝って、テレビも新聞もメジャーの記事がトップ扱いとなり、日本の野球がかすんで見えるほど。多くの日本人プレーヤーがメジャーを目指すようになった。
WBCなどの国際ゲームで勝てるようになって、日米間の格差が年々、少なくなっていることを実感したのも大きな要因である。さらに前年までNPBで共にプレーしていた選手が、メジャーで働けば、自分の判断材料にもなる。
もう一つの大きな流れは日米の賃金格差にもある。
大雑把に言えば日本の一軍選手の平均年俸が1億円だとすれば、メジャーでは約6億円と言われる。大谷のドジャースでの新年俸は約7000万ドル(契約時レートで約99億7500万円)。これは破格にしても山本由伸投手はオリックス時代の6億5000万円から、約39億円に。同じくDeNAでは1億4000万円の今永昇太投手はカブス移籍で約21億円の年俸を手にしている。(金額はいずれも推定、以下同じ)さらに彼らは複数年契約も結んでいるから将来まで安泰だ。
こうした日米の賃金格差はどうして生まれるのか?
MLBの収益構造を見ていくと、主なものはテレビ放映権、スポンサー料、チケットにライセンスを売るマーチャンダイジングの四つ。中でも放映権料は年間6000億円を越し、何割かは全球団に還元される。これに対してNPBの放映権は約250億円と言われている。他の科目も同じような図式だから、その差は圧倒的だ。
今や、日本球界の指導者を見てもメジャー帰りが目につくようになった。
来季の陣容を見ても日本ハム・新庄剛志、ロッテ・吉井理人、ヤクルト・高津臣吾監督に阪神・藤川球児新監督が加われば三分の一は元メジャーリーガーが占めることになる。
指導者から選手までメジャー流失は止まりそうにない。メジャーの下請け産業にならないように、NPBは新たな魅力づくりに挑戦し続けなければならない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)