日本ハムの“チーム愛”
いよいよ2024年のクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージが始まる。
セ・リーグは巨人とDeNAが、パ・リーグはソフトバンクと日本ハムがそれぞれ東京ドームとみずほPayPayドームで激突する。先に4勝したチームが日本シリーズに駒を進めるが、リーグ優勝を果たした巨人とソフトバンクには大きな“1勝”のアドバンテージがあり、DeNAと日本ハムが下克上を果たすのは容易なことではないだろう。
ただDeNAはCSファーストステージでリーグ2位の阪神を圧倒。2試合で13得点を挙げた好調な打線は巨人投手陣の脅威となりそうだ。
一方で、日本ハムはリーグ3位のロッテに大苦戦。初戦を落とすと、第2戦も9回一死までリードを許す展開だった。しかし、万波中正が起死回生の同点弾を放つと、10回裏に淺間大基のサヨナラ適時打が飛び出し、1勝1敗のタイに持ち込んだ。
第3戦もロッテに2点を先制され主導権を握られたが、3回裏に清宮幸太郎が同点打。試合が膠着状態に陥りそうだった5回途中に守護神の田中正義がマウンドに上がると、2度のイニング跨ぎを難なく完遂し、流れを引き寄せた。直後に、水野達稀が勝ち越し三塁打を放ち、大ベテラン宮西尚生が試合を締めるこれ以上ないゲーム運びでロッテをうっちゃった。
16日から始まるファイナルステージでも、その粘り腰を発揮できれば、十分に勝機は生まれるだろう。何よりソフトバンクにとって不気味なのは、チームを率いる新庄剛志監督の采配ではないだろうか。
新庄監督は21年オフに監督就任後、2年連続最下位の屈辱を味わった。しかし、思い返せば、最初の2年間は若手を中心としたチームを一からつくる助走期間だったに違いない。突拍子もない発言や采配が非難の的になったこともあったが、すべて新庄監督の描いた筋書きだったのではないか。
例え負けが込んでもユーモアを交えて明るく振る舞い、常に前を向く新庄監督の姿を選手たちはお手本として見ていたはずだ。
ファーストステージ突破を決めた直後、お立ち台に上がったのは清宮、水野、宮西の3選手だった。笑いあり涙ありのインタビューから垣間見えたのは、日本ハムの“チーム愛”だった。
冒頭「やりましたー!」と雄叫びを上げたのは清宮だった。今の気持ちを聞かれると、こみ上げるものがあったのだろう。10秒間の沈黙後、涙を堪えながら「大好きなファンの皆さんとチームのみんなとまだ野球ができると思うと、幸せだなと思います」。
言葉に詰まりながら感謝を伝えた清宮の姿にもらい泣きしたファンはどれだけいたことか。しかし、しんみりで終わらないのが新庄ファイターズである。
続いて勝利インタビューを受けた水野は、「打った瞬間、どんな景色が広がっていましたか?」という問いに、「『やりましたー!』言わせてくれないんですか?」とインタビュアーに逆質問。このやり取りに場内は爆笑の渦に包まれた。
そして最後を締めたのが39歳の宮西だ。
「勝利が決まった瞬間にはいろんな選手の目には涙がありました。宮西選手にも何かこみ上げるものがあったんじゃないですか?」
インタビュアーの質問に、宮西はしんみりした表情で「特にないですけど」とおどけてみせると場内は再び大爆笑。それでも「最後の最後に(試合を)潰したらどうしようというプレッシャーでマウンドに立っていました」と本音を吐露し、肩の荷を下ろしていた。
最後は宮西が新庄監督に感謝を伝えるとともに、日本シリーズでエスコンフィールドに戻ってくることを宣言。選手とファンが一体となった瞬間だった。
約10分に及ぶインタビューから感じ取ったのは新庄イズムの浸透だ。ユーモアを交えて笑いを取る姿はまさに「ビッグボス」そのもの。もちろん試合中にも新庄監督の意図をくんだプレーが随所に見られた。外から見ると“奇想天外”な新庄監督の采配ももはやチーム内では常識であるかのようだ。
いよいよ始まるファイナルステージ第1戦。そのマウンドには、エースの伊藤大海が上がる。果たして新庄監督はどんなストーリーを描いているのか。数日後にはその結末が明かされる。
文=八木遊(やぎ・ゆう)