60年以上も続く“呪縛”とは
全国には野球王国と呼ばれる地域が幾つかある。真っ先に思い浮かべるのは、過去2度の春夏連覇を達成している大阪桐蔭が牛耳る大阪府だろう。全国大会よりも大阪府予選を勝ち抜く方が難しいとまで言われているほどだ。
他にも強豪、古豪、伝統校が入り交じる神奈川県や愛知県なども野球王国と呼ばれるにふさわしい地域だが、大阪府を含めてそもそも人口(学校数)が多いことも一因だろう。そんな中、総人口が大阪府の約10分の1という“少数精鋭”の和歌山県も野球王国と呼ばれて久しい地域だ。
古くは和歌山中(現桐蔭)と海草中(現向陽)が戦前に2度ずつ全国制覇を達成し、戦後は箕島が一時代を築いた。平成に入ってからは智弁和歌山の1強が続いているが、市和歌山などライバル校も毎年のように全国レベルの戦力を整えている。
和歌山県は名選手の宝庫でもあり、プロ野球で名将と呼ばれた指導者も輩出している。古くは熱血漢として知られた和歌山中出身の西本幸雄氏が大毎、阪急、近鉄で指揮を執り、1960年から80年にかけて合計8度、チームをリーグ優勝に導いている。
ところが当時のプロ野球は巨人の黄金時代。V9のうち実にV5が西本監督率いる阪急に勝利しての日本一だった。西本監督は結局、日本シリーズでは8戦全敗。監督として日本一の称号を得ることはなかった。
その後、西本監督のリベンジに挑戦した和歌山県出身監督が1995年から2001年まで西武で指揮を執った東尾修監督だ。常勝軍団を築いた森祇晶監督からバトンを受けた東尾監督は7年間で一度もBクラスはなく、1997年と98年にはパ・リーグ連覇を果たした。ところが、97年はヤクルトに、98年は横浜にそれぞれ日本シリーズで敗れ、東尾監督もまた日本シリーズの大舞台で宙に舞うことがなかった。
この他には、藤田平氏(阪神)や、尾花高夫氏(横浜)らが監督のポジションを務めたが、リーグ制覇どころか、どちらも2年連続最下位の屈辱を味わっている。
なお現役ではソフトバンク・小久保裕紀監督、ロッテ・吉井理人監督、西武・西口文也監督の3氏が和歌山県出身。記憶に新しいが、昨秋に行われた日本シリーズで小久保監督率いるソフトバンクは2連勝スタートからDeNAに4連敗を喫し、日本一を逃した。つまり、和歌山県出身監督による日本シリーズでの連敗が「11」に延びたということになる。
今季はリベンジに燃える小久保監督に加えて、吉井監督、西口新監督が悲願に挑む。果たして1960年の西本監督から60年以上も続く呪縛を解くことはできるのか。3監督の采配に要注目だ。
文=八木遊(やぎ・ゆう)