好調カープの中継ぎエースは専門学校卒の150キロ右腕!
開幕からセ・リーグの首位を走った広島。巨人、阪神に抜かれたものの、前半戦を3位で折り返し、最低限の目標である「CS進出」圏内を死守している。
7月、18、19日に行われたマツダオールスターゲーム2014では、前田健太(先発)、一岡竜司 (中継)、ミコライオ(抑え)、キラ(一塁)、菊池涼介(二塁)、堂林翔太(三塁)、丸佳浩、エルドレッド(外野)と11人中8人がファン投票1位。トップ選手が集う華やかなグラウンドを赤く染め、好調ぶりをアピールした。
昨年、16年ぶりのAクラス入りを果たし、今年はハッキリと優勝を狙うチームに加わった戦力の一人が、全国のプロ野球ファンも認めた中継ぎ右腕・一岡竜司だ。昨年12月末、FAで巨人に移籍した大竹寛の人的補償として移籍。プロで実績のない入団2年目、22歳(当時)を獲得することに、首をかしげるファンは多かった。が、広島首脳陣は「狙っていた選手」と喜び、巨人首脳陣は「取られたくない選手だった」と悔しさをあらわにした。
今季は開幕から1軍入りを果たし、2戦目となる中日戦でプロ初ホールドを記録。4月26日の巨人戦では、延長11回からリリーフしてプロ初勝利。その後も登板を重ね、チームの勝利に欠かせない存在となっている。
武器は、なんといってもストレート。179センチ82キロと決して大柄ではないが、全身を大きく使って思い切り腕を振って打者に向かって投げ込む。球速は150キロ台をマークし、対戦したバッターが「剛球」と評する威力を持つ。さらに、フォーク、スライダー、カットボールと球種を増やし、精度を上げている。
華やかな活躍の一方で、専門学校卒という異例の経歴を持つ中継ぎエース。それ以前、野球選手にとって原点ともいえる中学時代から、歩みを振り返ってみよう。
ケガで終わった高校野球から自然体で成長してプロへ!
一岡竜司は1991年1月生まれ、福岡県出身。糸島市立前原西中学校時代は、硬式クラブの糸島イーグルス(当時、ジャパンリーグ)でプレーしていた。3年夏は、九州の中学硬式球界の一大イベントである「嬉野大会」に出場するも、1回戦敗退という記録が残っている。
高校は福岡を離れ、大分県の藤蔭高校へ。しかし、2年秋に利き腕の右ヒジを骨折し、3年夏の大会は登板することができなかった。一岡の代は、2年秋の県大会ベスト8、3年春の県大会ベスト4、そして、最後の夏はベスト4。一岡が万全であったら……、という思いは残る。同じ県内の同期には、日本文理大附属高校のエース・日高亮がいて、秋のドラフト4位でヤクルトの指名を受けた(日高は今季後半戦よりソフトバンクに移籍)。また、1学年下の今宮健太(明豊高→ソフトバンク)が、投打の逸材として早くも活躍。全国に目を移せば、センバツ優勝投手の東浜巨(沖縄尚学高→亜細亜大→ソフトバンク)が、プロ入りか大学進学か、注目を集めていた。
対して一岡は、名門大学や社会人チームから声がかかることもなく、福岡県福岡市にある沖データコンピュータ教育学院へ。そこでプロをめざして努力を重ねた! と想像しがちだが、「プロから声がかかるなんて、まったく想像していない。ムリだとあきらめていた」と明かす。しかも、ランニングが大嫌い。サボっているのがバレて「野球をやめろ!」と監督に言われ、本当にやめそうになったという。さらに、「専門学校時代に体重を20キロ増やし、球速が15キロアップ」という報道についても、「アルバイト先のピザ屋で毎日ピザを食べまくっていたら体重が増えて、いつの間にか球速が上がった」と語っている。
それでも、球が速くなり、威力を増したのは事実である。2011年、専門学校3年の都市対抗ではJR九州の補強選手に選ばれ、初戦で先発を任された。結果は4回途中降板、2失点で敗戦投手となったが、ついに全国区へと名乗りを上げた。
秋のドラフト直前になると、オリックスが下位指名を予定していると報じられた。が、巨人が3位指名。「まさか自分が指名を受けるとは」という当時のコメントは、正直な感想だろう。
プロ1年目の2012年は、イースタンリーグMVPを獲得。入団2年目の昨季はファームで35試合に登板し、0勝1敗15セーブ、防御率1.10。32回3分の2で42奪三振を記録した。さらに、昨オフ11月は、プエルトリコでのウィンターリーグに派遣。巨人は未来のリリーフエースとして、本当に大事に育てていたのだ。
チーム事情と球界のルールにより実現した突然の移籍。本人は「不安と希望が混じった感じだった」と明かすが、結果的には、巨人首脳陣が描いていたよりも早く、自分の居場所を見つけたことになる。プロ初勝利のヒーローインタビューでは、「カープに来て、ちかっぱ良かったっちゃけど!」と故郷のなまりで叫んだ。その一方で、巨人には「2年間お世話になりました」と感謝を表し、巨人関係者は一岡に温かい言葉をかけるという。
居場所を与えてくれた広島のため、成長した姿を古巣に見せるため――。たくさんの思いが詰まった一岡竜司のマウンドは、いつも熱いのである。
文=平田美穂(ひらた・みほ)