野球未経験者向けの野球教室
サブ・アリーナでは野球未経験者向けの野球教室も行われた。群馬県スポーツ少年団の指導者によって、未就学児童、小学校低学年の子供たちに、投げる、打つ、捕るなどの基本的な動作を通して、野球の面白さを子供たちに伝えた。ティーボールなどのゲームでは、夢中になってバットを振る子供の姿が見られた。
仁志敏久氏「野球を通した子供たちへの教育 ー野球界と子供たちの将来を考えてー」
午後からは、仁志敏久氏による講演「野球を通した子供たちへの教育 ー野球界と子供たちの将来を考えてー」が行われた。仁志氏は自身で作成したパワーポイントの資料を用いて、課題と解決策を丁寧に説明。
まず野球人口が激減しているなかで指導者に求められる課題を掲げた。
・野球の普及:幅広いプレーヤーの獲得
・子どもたちの問題:楽しいと本気の共存
・組織の課題:理念の統一
・指導者のあり方:知識と情熱
仁志氏は続いて、チーム作りの具体的な方法論を紹介した。
・指導理念
・チームを作る
・話を聞く側の環境を整える
・練習メニューへのこだわりと工夫
さらに「試合に向かう時に考えること」として
・必要な練習はしたか?
・注意事項は事前に伝えたか?
・指導者の「勝ちたいオーラ」は控えめに
・所詮ミスは出る
を紹介。
また「大切なこと」として、
・勝つことを目標としよう
・精一杯プレーすること
・知恵と力を合わせること
・充実感を味わうこと(緊張感も)
・楽しかったかどうかは、終わった時に感じるもの
を挙げた。
仁志氏は最後に、講演のポイントとして、
・指示を待つ子ではなく率先して動く「リーダー」を育成する
・指導側の満足な指導ではなく子供たちにとって「最適の指導」を行う
・「楽しいだけ」「厳しいだけ」ではなく「勝つこと」と「楽しむこと」を追求する
・目の前の子供たちだけへの指導ではなく、その向こう側へと続く指導(子供たちは将来、指導者になった時に自分が受けた指導を踏襲しようとする)
「みんなで考えましょう。みんなで作りましょう。野球がある未来を。野球で育つ子供たちの将来を」と締めくくった。
仁志氏の講演で印象的だったのは「俺たちの時代は、はガラクタ」という言葉だ。昔の指導者は「俺たちの時代は」と言いがちだが、野球指導は進化しているので昔の経験は「ガラクタ」になって使えないということだ。
スポーツ栄養指導・野球医学の話
武道場の会議室では、味の素栄養士によるスポーツ栄養指導と、スポーツドクター馬見塚尚孝氏による野球医学の話が2回ずつ開催された。馬見塚氏は日本の野球医学の第一人者。野球少年の健康障害について、写真や図表を用いて具体的に紹介。また第二の大谷翔平を育てるために、どうすれば子供の身長を伸ばすことができるのかを、生活面も含めて説明した。
指導者講習会
最後に大道場で、指導者講習会が行われ、4人の講師が以下のテーマで講演をした。「野球の歴史と指導者のあるべき姿」
上田誠氏(慶應義塾高校元野球部監督)
「日本野球界の現状と課題」
大渕隆氏(北海道日本ハムファイターズ)
「世界の野球から学ぶ これからの日本の少年野球のあり方!」
阪長友仁氏(プロスペクト株式会社)
「今後の少年野球を考える」
宗像豊巳氏(全日本軟式野球連盟専務理事)
宗像氏は、今年2月、全軟連に、学童の軟式野球に「球数制限」の導入を提案すると明言した。
講演の後は、「ぐんま野球フェスタ2019」の実行委員長である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三氏の司会で、4氏と群馬県スポーツ少年団野球部会副会長加藤満氏も交えて、ディスカッションが行われた。
・投球数、練習時間、オフシーズンについて
・少年野球の指導方法について
・野球競技人口をどう増やしていくか?
・大会で導入することが望ましいルール
というテーマで意見交換が行われた。
昨年12月22日には新潟県高野連が春季県大会での「球数制限」の導入を決めたが、群馬県でも「野球人口の激減」の中で「勝利至上主義」を排除し、子ども未来のために野球指導を行うことが、強く訴えられた。
このイベントに参加した群馬県内の少年野球の指導者は、
「仁志さんによる最新の指導技術に触れることができた上に、指導の考え方、指導者の在り方にも触れることができ、有意義だった」と語った。
また、スポーツ少年団で2人の兄弟に野球をさせている父親は
「技術やトレーニング方法も教えてもらえたし、野球ひじなどの検診もうけることができた。いろいろ懸念していたことが、はっきりしてよかった」と語った。
参加者は4000人を超えた。「野球の未来」を考える機運が高まっていることを実感したイベントだった。(取材・写真:広尾晃)