ニュース 2019.04.04. 11:55

打つ・投げるだけじゃない!古豪・甲府工の『走りの改革』に密着(後編)

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春・夏13回の甲子園出場を誇る古豪・甲府工業高等学校。長年に渡って山梨県の高校野球界をリードする存在だったが、近年は山梨学院や東海大甲府など、強豪私学がその前に大きく立ちふさがります。そこで甲子園出場を目指し、「あと一歩」の勝負を制するため、『走りの改革』に着手。走りのスペシャリストである谷真一郎さんを特別コーチとして、『走りの改革』でさらなる進化を目指すチームの様子をレポートします。

ラダーを使って、正しい走りを会得する


競技中の映像を見て、走りのメカニズムを理解した選手たち。その後、実際に身体を動かしながら、フォームを身につけます。リズミカルな最新の洋楽を流しながら取り組むのが、谷さんのスタイル。その曲のスピードに合わせて、はじめはゆっくりとしたテンポで、姿勢を意識しながら行進するように手と足を動かします。徐々に曲のテンポを速くすると、自然と手足の動きも速くなり、歩きが走りへと変わっていきます。テンポが変わっても基本の姿勢や腕の振り、足の接地部分は変えずに走るのがポイントです。



選手たちはフォームを理解し始めたのか、動きの質が目に見えて上がってきました。そこで、さらにトレーニングの質を上げるため、野球専用ラダーを使って、動きを制限した状態を作ります。



「通常より短い4マスのラダーを今回使ったのは、スピードを落とさずに身体を速く動かす能力が身につくため。ラダーは身体を疲れさせずに、一瞬の動きを上げるために必要なアイテム」と語る谷さん。 また「走りの練習=数多く走ることではない」と言い、練習中も頻繁に選手たちの足を止めて、その場で課題を明確にし、野球に必要な動きとの関連性も丁寧に説明。小学生から大人まで誰でも理解できるようにわかりやすく、かつ競技に直結したトレーニングは、谷さんの指導の特徴ともいえます。

走攻守全てにおいて動き出しの一歩目を速くすること


動き出しの一歩目について、「進みたい方向へ踏み出す足より、逆の足で地面反力を得てから進むこと」が重要だと説明した谷さんは、プロでも指折りの俊足・赤星憲広選手(元・阪神タイガース)や西川遥輝選手(日本ハムファイターズ)の一歩目に着目。彼らの盗塁シーンをまとめた映像を披露して、一度左足で地面の力を得てから右足を踏み出していることを紹介しました。 実はこの理論は守備の時もまったく同じで、名手と言われる菊池涼介選手(広島東洋カープ)も、進みたい方向の逆側の足に体重を乗せてから、ステップしているのです。



映像で見ることで、プレーに直結するとわかると、選手たちの目の色はガラリと変化。普段、どのように動き出しをしてるのか、と気になった選手たちが、率先して盗塁や守備の構えを確認する姿が見られました。



そのなかで谷さんが注目したのは、少しでも速く目的地に届くために一歩目を遠くに出して、かかと着地になってしまう選手たちでした。彼らに対して「土の上で走るときは、音に注目すること。足の裏全体で地面を蹴ると『ジャリジャリ』と音がしますが、つま先だとポンポンと音が変わりますよ」と意識の仕方をアドバイス。

たった1時間半で、走りはガラリと変わる


最後に本日のおさらいとして走りのフォームを再度撮影すると、たった1時間半の練習ですが、選手たちのフォームは一目瞭然。身体の軸を意識したまっすぐな姿勢からつま先で接地する理想の走りを早くも習得していました。まずは頭で理解して、すぐに身体で体現することで、身につけるスピードも格段にアップすることができたのです。


理想の走りに近づいた選手たちに、谷さんは「練習前は、動きに課題がある選手が多いなと思っていましたが、すぐに習得した球児たちの能力は高いですね。今日教えたことを忘れずに、日々のトレーニングを継続すればプレーの質は必ず上がります。強豪私学を倒すためにも走りを武器にしてほしいですね」と期待の言葉を投げかけました。

その数日後、前田監督に話を聞くと、「コーチに『足が速くなった気がするんですよ!』と嬉しそうに話す選手がいたみたいですよ(笑)。正しいフォームを身につけられるかは、努力次第で誰でもできます。こういった基礎を徹底し、自信をつけていくことがプレーの面だけではなく、気持ちの面でも相乗効果があると思います。夏までに接戦を勝ち切れる身体と気持ちを作っていきたいですね」。と早くもその効果を実感しているそう。

古豪が新たに取り組み始めた『走りの改革』。谷さんの指導で得た手ごたえは、継続して取り組むことで必ずや大きな武器になることでしょう。あと一歩で届かなかった頂を再び目指す甲府工ナインの挑戦に注目です。

(取材・写真:ヤキュイク編集部)








谷真一郎 プロフィール



筑波大学では蹴球部に所属し、在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。
引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年よりヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務め、昨年日本では初となるフィジカルコーチライセンス最高レベルの「AFCフィットネス・コーチ・ライセンス,レベル2」を取得した。
また動き出しの一歩目に着目し、サッカー界に新たな常識をもたらした「タニラダー」の考案者であり、野球向けに改良した 『タニラダー for BASEBALL』でも、その独自のメソッドを伝えている。

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