野球漫画『MAJOR』の編集者である宮坂保志さんが神奈川県川崎市宮前区の少年野球チーム『水沢ライナーズ』で行った画期的な改革。子どもの野球人口減少の要因の一つと考えられる“悪しき慣習”を取り払い、チームの再建に成功したのは約5年前。今回は改革をサポートした岩崎正人部長と中尾幸靖マネージャーにお話を伺い、試合を行うことすらままならなかった状況から部員が増えた要因をシリーズで聞いていきます。
――お二人は宮坂さんが監督になり、改革を行う以前からチームに関わっていたと聞いております。改革を行う前の水沢ライナーズはどのようなチームだったのでしょうか?
岩崎 簡単に言えば「昔ながらのチーム」です。試合に勝つことを目的としていたので、僕が入ったときはグラウンドに指導者の罵声は飛び交っていましたし、夏場の厳しい練習では水分補給の時間が十分とはいえない状態でした。ただ、そういったチームを見て、中尾さんを始め若いお父さんコーチの方々から不満というのが出てきました。
中尾 当時はまだ子どもの人数も多く、ハードな練習の成果もあって試合に勝つことはできていました。ですが、勝利にこだわり過ぎて、試合に出られない子どもが多くいたのも事実です。私もそういう価値観のなかでスポーツをしていましたが、いざ自分の子どもと同じ年代の子どもたちを指導するようになり「子どもたちは指導者のコマではないのでは?」という疑問を感じるようになりました。
――宮坂さんが監督に就任する前からチームにはそういった不満や将来への危惧があったんですね。
岩崎 子どもの人数がいるうちは満足な結果を残せていても、子どもの数がどんどん減っていくと結果を残すことができなくなっていきました。指導方針や今後のチーム運営を含め「このままではマズい……」とチームに関わるみんなが思っていたはずです。そこで宮坂さんが徐々に改革を始めていったわけです。
――改革の根底には勝利至上主義からの脱却があったと伺っています。
中尾 指導者だけではなく、保護者を含めて大人側の考えを変えるのは容易ではありません。昔の私がそうであったように、我が子が試合で活躍する姿を見たいと思う親御さんが大半です。でも、子どもたちに「夢はなに?」と聞くとみんな口を揃えて「プロ野球選手になること」と答えます。彼らの夢をサポートする上で「少年野球で勝つことは彼らの夢に繋がるのか?」という疑問もあるわけです。
岩崎 私は接骨院を開いている手前、子どもの身体について目を向ける機会が多いです。試合で勝つために、未熟な子どもの身体を酷使することは果たして彼らの未来のためになるのか? 例えば投球数が増えれば筋肉は疲労し硬くなり、肩甲骨や肩の可動域は狭くなりフォームを崩し身体への負担が大きくなります。卒団して、中学や高校に進んだ後に大きなケガに繋がってしまう要因を幼少期に作ってしまうのは間違っていると考えるようになりましたね。
――子どもたちの将来を考えれば、少年野球の段階で無理をさせる必要はないという結論にたどり着いたわけですね。
岩﨑 プロ野球選手になることを夢みる子どもの登竜門のような存在でもあるのが甲子園です。つまり“高校野球”にピークを迎える構図が出来上がっていると思います。甲子園に出場する強豪校に入るためにも、中学では有名シニアやボーイズに所属していくルートが定着してしまい、中学で活躍するためにも少年野球の段階で無理をさせてしまう。だから小学5、6年生で肘を痛める子が非常に多いです。成長に伴い筋力が急激に上がりますが、それに骨の成長がついていかない。そういった子どもの身体にも目を向けるようになったのも改革の始まりだったかもしれません。(取材・細川良介/写真・編集部)
次回「水沢ライナーズが行なった4つの改革(その1)|スポーツ少年団への加入」に続きます。
――お二人は宮坂さんが監督になり、改革を行う以前からチームに関わっていたと聞いております。改革を行う前の水沢ライナーズはどのようなチームだったのでしょうか?
岩崎 簡単に言えば「昔ながらのチーム」です。試合に勝つことを目的としていたので、僕が入ったときはグラウンドに指導者の罵声は飛び交っていましたし、夏場の厳しい練習では水分補給の時間が十分とはいえない状態でした。ただ、そういったチームを見て、中尾さんを始め若いお父さんコーチの方々から不満というのが出てきました。
中尾 当時はまだ子どもの人数も多く、ハードな練習の成果もあって試合に勝つことはできていました。ですが、勝利にこだわり過ぎて、試合に出られない子どもが多くいたのも事実です。私もそういう価値観のなかでスポーツをしていましたが、いざ自分の子どもと同じ年代の子どもたちを指導するようになり「子どもたちは指導者のコマではないのでは?」という疑問を感じるようになりました。
――宮坂さんが監督に就任する前からチームにはそういった不満や将来への危惧があったんですね。
岩崎 子どもの人数がいるうちは満足な結果を残せていても、子どもの数がどんどん減っていくと結果を残すことができなくなっていきました。指導方針や今後のチーム運営を含め「このままではマズい……」とチームに関わるみんなが思っていたはずです。そこで宮坂さんが徐々に改革を始めていったわけです。
――改革の根底には勝利至上主義からの脱却があったと伺っています。
中尾 指導者だけではなく、保護者を含めて大人側の考えを変えるのは容易ではありません。昔の私がそうであったように、我が子が試合で活躍する姿を見たいと思う親御さんが大半です。でも、子どもたちに「夢はなに?」と聞くとみんな口を揃えて「プロ野球選手になること」と答えます。彼らの夢をサポートする上で「少年野球で勝つことは彼らの夢に繋がるのか?」という疑問もあるわけです。
岩崎 私は接骨院を開いている手前、子どもの身体について目を向ける機会が多いです。試合で勝つために、未熟な子どもの身体を酷使することは果たして彼らの未来のためになるのか? 例えば投球数が増えれば筋肉は疲労し硬くなり、肩甲骨や肩の可動域は狭くなりフォームを崩し身体への負担が大きくなります。卒団して、中学や高校に進んだ後に大きなケガに繋がってしまう要因を幼少期に作ってしまうのは間違っていると考えるようになりましたね。
――子どもたちの将来を考えれば、少年野球の段階で無理をさせる必要はないという結論にたどり着いたわけですね。
岩﨑 プロ野球選手になることを夢みる子どもの登竜門のような存在でもあるのが甲子園です。つまり“高校野球”にピークを迎える構図が出来上がっていると思います。甲子園に出場する強豪校に入るためにも、中学では有名シニアやボーイズに所属していくルートが定着してしまい、中学で活躍するためにも少年野球の段階で無理をさせてしまう。だから小学5、6年生で肘を痛める子が非常に多いです。成長に伴い筋力が急激に上がりますが、それに骨の成長がついていかない。そういった子どもの身体にも目を向けるようになったのも改革の始まりだったかもしれません。(取材・細川良介/写真・編集部)
次回「水沢ライナーズが行なった4つの改革(その1)|スポーツ少年団への加入」に続きます。