野球少年、野球少女のお父さん、お母さん、そして少年野球指導者の皆さんにとって役に立つ、勉強になる野球の本を紹介します。
今回紹介するのは、スポーツライター大利実さんの『継投論』(竹書房)です。高校野球の試合における継投について書かれた本ですが、その中でトミージョン手術の権威である慶友整形外科病院の古島弘三先生に、ドミニカの野球指導についてお話を聞いている章がありますので、一部をご紹介します。
ーー日本では今でも指導者の罵声が問題視されますが、ドミニカはどのような指導スタイルなのでしょうか?
古島 ドミニカでは、怒声罵声はまったくないですね。選手の楽しそうな声しか聞こえません。指導者たちはみんな、「怒鳴ることによる指導は、子どもたちが萎縮してしまい、思い切ったプレーができなくなる」という考えを持っていました。そもそも、スポーツは「健康な体を作る」「スポーツマンシップを学ぶ」「人間性を育てる」というような目的があるはずですが、日本は軍隊式指導からの流れもあり、「修行」「苦しみを乗り越える」。特に野球はその側面が強いのではないでしょうか。
ーー戦後直後ながらまだしも、もうそんな時代ではありませんね。
古島 そう思いますね。そこから考えていかないといけないでしょう。
ーードミニカの練習時間はどのぐらいなのですか。
古島 小学生では1日3時間で、週5日ほど。その中で試合もやっていました。日本の練習に見慣れていると、「これで終わり?」という練習量です。キャッチボールは5分ぐらいで、ノックもひとり5〜10本で終わり。守備練習では、指導者が前から転がしたボールを捕って、近いところに投げることを何本か繰り返していました。ピッチャーは試合では投げていましたが、ブルペンで投げることはほとんどありません。それでも高校生になると、どのピッチャーも球が速くて、驚かされました。ドミニカの指導者は、「試合をして野球を好きになる。小学生の段階では野球が楽しいと感じさせることだけで十分だ」と言っていましたね。あとは、自分で勝手に練習するようになり、うまくなる。私の外来に受診してくる選手の中には、「野球は好きだけど楽しくない」といった選手が実は多数います。
ーー日本とはまったく違いますね。球速を上げるためにはドミニカではどういったことをやっているのですか?
古島 潜在能力の高さはあるでしょうが、たくさん投げていなくても、体が大きくなれば速くなってくるということです。体の成長とともに球速も上がる。これが、理想なのだと思います。体が小さい、もしくは成長段階で能力以上の速さを求めては故障してしまうのです。その事実も知っておいたほうがいいと思います。
ーー日本の場合は、投げすぎることで疲弊しているケースもありますね。
古島 疲労がパフォーマンスを下げ、故障につながってしまうのです。ドミニカの指導者が第一に考えているのは、「ケガをさせないためにはどうしたらいいか」です。これは、アメリカの指導者もドミニカの指導者も言っていることですが、「日本は経済では先進国だけど、野球の指導においては発展途上国だ」と。残念ながら、そういうふうに見られているのです。
ーーなかなかショッキングな言葉ですね。
古島 指導者が子どもたちの体を守りながら、スポーツを教えることが世界標準なのです。ドミニカでは、「メジャーで活躍するには、体を大きくしなければいけない。大きくするためには、練習のやりすぎはいけない。成長期こそ、休息をしっかり取ることが大事だ」という考えが根底にあります。日本の指導者は、「休んでいる暇があったら、走っていろ!」と考える人が多いのではないでしょうか。
■内容紹介■
もう「エースと心中」では勝てない!
10人のプロフェッショナルが、それぞれの見地から語る、新時代の継投論!
継投の適切なタイミングや、複数の投手を育てる方法、
データに沿った継投術、投球障害を予防する球数等、
継投の極意と重要性を、7人の名将とトミー・ジョン手術の権威、
セイバーメトリクスの専門家らが語る。
・東海大相模 門馬敬治監督
・山梨学院 吉田洸二監督
・仙台育英 須江航監督
・創成館 稙田龍生監督
・近江 多賀章仁監督
・健大高崎 青栁博文監督/葛原美峰元アドバイザー
・健大高崎・花咲徳栄 塚原謙太郎トレーナー
・慶友整形外科病院 古島弘三整形外科部長
・株式会社DELTA 岡田友輔代表取締役
今回紹介するのは、スポーツライター大利実さんの『継投論』(竹書房)です。高校野球の試合における継投について書かれた本ですが、その中でトミージョン手術の権威である慶友整形外科病院の古島弘三先生に、ドミニカの野球指導についてお話を聞いている章がありますので、一部をご紹介します。
「野球は好きだけど楽しくない」という選手
ーー日本では今でも指導者の罵声が問題視されますが、ドミニカはどのような指導スタイルなのでしょうか?
古島 ドミニカでは、怒声罵声はまったくないですね。選手の楽しそうな声しか聞こえません。指導者たちはみんな、「怒鳴ることによる指導は、子どもたちが萎縮してしまい、思い切ったプレーができなくなる」という考えを持っていました。そもそも、スポーツは「健康な体を作る」「スポーツマンシップを学ぶ」「人間性を育てる」というような目的があるはずですが、日本は軍隊式指導からの流れもあり、「修行」「苦しみを乗り越える」。特に野球はその側面が強いのではないでしょうか。
ーー戦後直後ながらまだしも、もうそんな時代ではありませんね。
古島 そう思いますね。そこから考えていかないといけないでしょう。
ーードミニカの練習時間はどのぐらいなのですか。
古島 小学生では1日3時間で、週5日ほど。その中で試合もやっていました。日本の練習に見慣れていると、「これで終わり?」という練習量です。キャッチボールは5分ぐらいで、ノックもひとり5〜10本で終わり。守備練習では、指導者が前から転がしたボールを捕って、近いところに投げることを何本か繰り返していました。ピッチャーは試合では投げていましたが、ブルペンで投げることはほとんどありません。それでも高校生になると、どのピッチャーも球が速くて、驚かされました。ドミニカの指導者は、「試合をして野球を好きになる。小学生の段階では野球が楽しいと感じさせることだけで十分だ」と言っていましたね。あとは、自分で勝手に練習するようになり、うまくなる。私の外来に受診してくる選手の中には、「野球は好きだけど楽しくない」といった選手が実は多数います。
ーー日本とはまったく違いますね。球速を上げるためにはドミニカではどういったことをやっているのですか?
古島 潜在能力の高さはあるでしょうが、たくさん投げていなくても、体が大きくなれば速くなってくるということです。体の成長とともに球速も上がる。これが、理想なのだと思います。体が小さい、もしくは成長段階で能力以上の速さを求めては故障してしまうのです。その事実も知っておいたほうがいいと思います。
成長期こそしっかりと休息を
ーー日本の場合は、投げすぎることで疲弊しているケースもありますね。
古島 疲労がパフォーマンスを下げ、故障につながってしまうのです。ドミニカの指導者が第一に考えているのは、「ケガをさせないためにはどうしたらいいか」です。これは、アメリカの指導者もドミニカの指導者も言っていることですが、「日本は経済では先進国だけど、野球の指導においては発展途上国だ」と。残念ながら、そういうふうに見られているのです。
ーーなかなかショッキングな言葉ですね。
古島 指導者が子どもたちの体を守りながら、スポーツを教えることが世界標準なのです。ドミニカでは、「メジャーで活躍するには、体を大きくしなければいけない。大きくするためには、練習のやりすぎはいけない。成長期こそ、休息をしっかり取ることが大事だ」という考えが根底にあります。日本の指導者は、「休んでいる暇があったら、走っていろ!」と考える人が多いのではないでしょうか。
■内容紹介■
もう「エースと心中」では勝てない!
10人のプロフェッショナルが、それぞれの見地から語る、新時代の継投論!
継投の適切なタイミングや、複数の投手を育てる方法、
データに沿った継投術、投球障害を予防する球数等、
継投の極意と重要性を、7人の名将とトミー・ジョン手術の権威、
セイバーメトリクスの専門家らが語る。
・東海大相模 門馬敬治監督
・山梨学院 吉田洸二監督
・仙台育英 須江航監督
・創成館 稙田龍生監督
・近江 多賀章仁監督
・健大高崎 青栁博文監督/葛原美峰元アドバイザー
・健大高崎・花咲徳栄 塚原謙太郎トレーナー
・慶友整形外科病院 古島弘三整形外科部長
・株式会社DELTA 岡田友輔代表取締役