侍ジャパン・井端監督

◆ 白球つれづれ2026・第11回

 WBC(ワールドベースボールクラシック、以下同じ)連覇を狙った侍ジャパンが準々決勝で敗退した。

 メジャーのスター選手を揃えるベネズエラと壮絶な打撃戦を展開。一時は森下翔太選手の3ランなどで3点をリードしたが、中盤以降、ベネズエラの強力打線の反撃を許し今大会から姿を消した。

 一夜明けのスポーツ各紙を見ると、井端弘和監督の退任と、後任人事に着目。一部では松井秀喜氏や栗山英樹前侍ジャパン監督らの名前も取りざたされている。いわゆる“観測気球”の部類だろうが、ちょっと待って、と言いたくなる。後任監督の名前を出す前に、今大会の戦いの跡を分析して、どこに敗因があるのか? 今後の日本野球はどう言う方向に進むべきか? それにはどんな次期指導者がふさわしいのか? NPBの強化委員会で熟議の上、方向性を示すことが先決ではないか?

 今回のWBCでは、日本チームだけでも大きな変化があった。

 先週の当コラムで取り上げたが、日本人メジャーリーガーが増えることで戦い方そのものが変化。いわゆる日本のお家芸とされた「スモールベースボール」が影を潜め、力勝負の「パワー野球」が前面に出て来た。

 投手陣を見てみると、大会前から平良海馬、石井大智らのクローザー候補が相次いで故障離脱。守護神候補の大勢にも本来の球威が戻らず、中継ぎから抑えの“専門職”を欠いたことがベネズエラ戦の逆転負けにつながったと言う指摘もある。

 加えて、米国、ドミニカ共和国、ベネズエラと言ったライバル国が、前回大会とは比べ物にならないほどチーム作りに力を入れたことで、戦力が飛躍的に強化されている。この大会が世界的に認知され、巨額のマネーが動く大イベントに成長したわけだ。

 もともと大会の公平性を担保するには、米国だけでなくアジアや南米、欧州まで持ち周る世界大会にするのが理想だが、巨大な野球大会を主催、運営できるのは現状では米国と日本だけ。競技ルールもMLBが主導する、予選リーグを通過したチームは米国に集結してフィナーレを迎える。こうした環境下で日本が連覇するのは、年々難しくなっている。

 今、日本の野球界に求められているのは、「世界基準」とそれに沿った「世界戦略」である。

 先に日本人メジャーリーガーの増加に触れた。今大会には8選手が全米各地から一時帰国して戦いに加わった。しかし、この流れは今後さらに激しさを増して行く。

 すでに米国のスポーツ放送局ESPNの電子版では、「次に移籍する可能性の高い選手」として伊藤大海、佐藤輝明両選手の名前を上げている。

 それだけではない。今オフに将来のメジャー入り希望を明言した選手は牧秀悟、森下翔太、小園海斗、髙橋宏斗、平良海馬、石井大智、種市篤暉、大勢ら予備軍がズラリ。WBCのようなメジャー選手と一緒にプレーする機会を経てメジャー行きを熱望する選手は多い。このまま行くと次回のWBCでは侍のメジャー組は間違いなく10人をこえているだろう。

 加えて、日本野球の質の高さを知ったMLBのスカウト連は“青田買い”まで狙っている。今春のセンバツ高校野球に出場する山梨学院大付の菰田陽生や、横浜高の織田奨希投手らの逸材を密着マーク。あわよくば直接メジャーと契約まで画策している。すでに佐々木麟太郎選手などはスタンフォード大に進学。メジャーと日本球界入り(ソフトバンクがドラフト1位指名)双方の可能性を残している。

 一流選手の多くが海外に身を置く時代。すでに「世界戦略」を実践しているのが欧州に多く選手を輩出しているサッカー界だ。

 ドイツのデュッセルドルフに日本選手用の拠点事務所を構え、各選手の動向から、食事、医療面まで手厚くフォローしている。さらに傘下のJリーグでも昨年からロンドンに独自の事務所を開設。監督や選手獲得の情報まで手に入れることが出来る。

 野球界も大谷翔平や鈴木誠也の情報までは把握できるだろうが、これからはマイナーで腕を磨く有望選手も出てくるだろう。そうした選手をいち早く侍ジャパンがキャッチして、チーム作りに生かす必要がある時代はそこまで来ている。

 NPB首脳はいつまでもMLBの下請けにならず、対等なパワーを身に着ける事。現場の指導者は足繁く全米や中南米を視察して、世界サイズを体感する事。

 日本野球が生まれ変われなければ、侍ジャパンの完全復活もまた、ない。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

荒川和夫 の記事をもっと見る

もっと読む