やっぱり、“超人”
阪神に移籍した糸井嘉男が快調だ。
右膝の違和感でキャンプを出遅れた時にはどうなることかと思ったファンも多かったであろうが、今や周囲が心配するほどのハイペース調整を行い、フリー打撃でも柵越えを連発。驚異の身体能力は初めて男を間近で見る同僚たちを驚かせている。
やっぱり、“超人”だった――。35歳からの4年間に及ぶ大型契約に疑問の目を向けていた人も少なくなかったが、この男をふつうのものさしで計るのは間違いなのかもしれない。そんな期待を抱かせてくれるようなパフォーマンスを見せている。
阪神59・糸井53
“走攻守”…すべてにおいて期待がかかる糸井であるが、中でもその走力に期待する声は大きい。
何と言っても昨季は、不安を抱えた中でも53個の盗塁を決めて自身初の盗塁王を獲得。1982年の福本豊、1993年の大石大二郎と並ぶ、NPB史上最年長での盗塁王となった。
近年の阪神は特に機動力という部分で他のチームから遅れを取っており、昨年のチーム盗塁数59はリーグ最低。糸井ひとりと比べても6つしか差がないというくらいに、盗塁が少なかったのだ。
もちろん糸井が昨季のような活躍をする保証はないのだが、うまくハマれば一人で一気に弱点を補い、帳消しにしてしまうようなピースとなり得る。
“衰え”の文字はない…?
今ではすっかり“野手”としてのイメージが強い糸井だが、元はと言えば投手としてのプロ入りだった。
そこから首位打者を獲得するまでの打者になり、盗塁王を獲得するような走者にもなる...。もともとあった才能や身体能力による部分は大きいかもしれないが、自らの経験とたゆまぬ努力無くしてここまでの栄光はなかったことだろう。ここで糸井の年度別盗塁数を振り返ってみよう。
【糸井嘉男・年度別盗塁数】
2007年:1個
2008年:13個
2009年:24個
2010年:26個
2011年:31個
2012年:22個
2013年:33個
2014年:31個
2015年:11個
2016年:53個
―――――
通算:245個
ここまで9年連続で2ケタ以上の盗塁を記録。しかし、これまでのキャリア最多が33個だったところを、35歳になるシーズンで一気に飛び越えて53個まで伸ばしてしまうという部分が、この人の“超人”ぶりを物語っている。
上でも少し触れたが、この人をふつうの物差しで計り、「衰えが~」などと語るのは無意味な気がする。
この春も、別メニュー調整だったキャンプ序盤に球団が招へいした臨時コーチ・秋本真吾氏(元陸上選手/男子200mハードルのアジア最高記録保持者)とよく会話を交わし、出来る範囲でのトレーニングを行っていた。専門家からの指導を受けながら余裕の笑顔を見せる男の姿を見ると、まだまだ成長の余地があるのかもと思わせられる。
もし今年も盗塁王を獲得するようなことになれば、真のNPB最年長盗塁王となるうえ、両リーグでの盗塁王獲得は1962年の河野旭輝氏以来で史上2人目という快挙だ。
虎の“超人”から目が離せない。