伝統の「鬼ノック」
2月17日の沖縄・那覇。巨人の練習に懐かしい光景が見られた。
バットを握った高橋由伸監督から、坂本勇人や村田修一、阿部慎之助といった主力選手に嵐のようなノックが浴びせられる。全体練習後の約1時間、計347球に及ぶ特守。巨人伝統の「鬼ノック」が復活した。
厳しさの中にも和やかな空気が漂い、高橋監督がミスをすれば選手側から容赦ないツッコミが。大勢の観客に見守られた中、チームとしての一体感を感じた光景だったように思う。
移りゆく時代の中で...
思えばまだ宮崎でキャンプを張っていた2月11日、巨人ナインのもとを長嶋茂雄終身名誉監督が訪れた。
今ではおなじみとなった「勝つ!勝つ!勝つ!勝つ!」の発声で気合いを注入。もしかすると高橋監督が再びノックバットを握った舞台裏には、この出来事があったのかもしれない。
かつては名物として知られた「鬼ノック」。長嶋茂雄や王貞治といったレジェンドの存在をはじめ、球団が築き上げてきた長い歴史の中で培われた一つの確固たる軸線のひとつだ。その系譜を引き継いだ今の選手達が、不易流行していく中で強いチームが築かれていくのだろう。
“世代交代”と言えば、新陳代謝を必要とするチームにおいて不可欠な要素であることに間違いない。しかし、そんな中で見失ってはいけない確固たる球団の根本があることも事実。否、その根本を築き上げ、未来永劫球団の財産として引き継いでいくことをせずに、建設的な球団経営はできないのではないか。
守るべき伝統
他競技では、「○○スピリッツ」や「○○イズム」という言葉を良く耳にする。サッカーを例に挙げると、リオネル・メッシ擁するスペイン1部リーグのバルセロナは、「空飛ぶオランダ人(フライング・ダッチマン)」ことヨハン・クライフの“美しく勝つ”というスピリッツを今なお系譜し、選手補強からチーム戦術、育成ノウハウの全てにおいて一貫した精神性を据えている。
日本でも、鹿島アントラーズがサッカーの神様・ジーコの教えを「ジーコイズム」として掲げ、基本指針である「一体感」をチームの根本に据えてクラブ経営を行っている。そうした一貫したスタイルが、長い蓄積の中で大輪の花を咲かせることに繋がるのだろう。
日本においては、サッカーよりも長い歴史を誇る野球。過去から現在に至るまで一貫して球界を牽引してきた巨人軍に根付くレガシーは、日本の宝とも言えるほど壮大だ。
大胆な選手補強も巨人のスタイルと言えばそれまでだが、球団が積み上げた歴史に目を向け、確固たるスタイルを我々に見せつけて欲しいところだ。