◆ 先発完投が減少傾向
先日、某テレビ局の特別番組で元ヤクルト投手の伊藤智仁氏が取り上げられた。ルーキーイヤーの1993年に“酷使”され、肘を故障。当時監督を務めていた野村克也氏が、天才投手の“将来をつぶした”として謝罪するという内容だった。
あれから四半世紀という長い月日が経ち、投手に対する野球界の考え方も大きく変わった。伊藤氏が番組で語ったように、当時は「先発完投」が当たり前だった。その後、投手の分業化が急速に進み、完投は徐々に減り、先発投手は100球を目安に交代するという流れが出来上がりつつある。
このような“球数制限”をいち早く取り入れたのがメジャーリーグだった。メジャーでは、「投手の肩は消耗品」という考えが浸透している。メジャーでシーズン200イニング以上を投げた投手の人数を1977年から2017年まで10年ごとに調べてみた。
1977年:60人
1987年:47人
1997年:43人
2007年:38人
2017年:15人
先発投手の投球数が制限された結果、シーズン200イニングを投げる投手は激減。2017年シーズンに最も多くのイニングを投げた投手がクリス・セール(レッドソックス)で、214回1/3だった。これはストライキシーズンを除き、シーズン1位の投手としては史上最少。メジャーは、年間162試合を戦い、先発投手の登板間隔が基本的に中4日ということで、その環境は過酷だと思われがちだが、時代とともにその負担は減少傾向にある。
2000年前後までは当たり前だったシーズン250イニング達成者も2011年のジャスティン・バーランダー(現アストロズ)を最後に出ていない。では、なぜ先発投手のイニング数が減り続けているのだろうか。
◆ 200イニング以上の投手の減少要因は…
一つの要因が、打者の技術が上がり、投手は球速アップを迫られただけでなく、肩・肘に負担が大きい変化球の割合も増やさざるを得なくなった。また、救援投手に比べ、より多くの球数を投げるため、先発投手は故障と常に隣り合わせだ。年俸も高いため、故障してしまえば、チームには大きな痛手となってしまう。その結果、先発投手はより“大事に”扱われている。
メジャーでは、1試合当たりの球数制限には敏感だが、先発投手の人数を増やすという動きには消極的だった。しかし、このオフに大谷翔平(エンゼルス)が移籍したことで、先発6人制の採用が本格的に議論され始めている。
数年後には“先発投手6人制”がメジャーで定着する可能性も十分あるだろう。そうなればシーズン200イニングを超える投手がほぼいなくなるかもしれない。
野球は時代とともに変わるのは必然だ。何より、投手の“商品”である肩・肘は守られるべきだろう。それでも先発投手のイニング数減少の傾向には一抹の寂しさも感じてしまう。
文=八木遊(やぎ・ゆう)