◆ 勝負の後半戦
ベイスターズは36勝40敗2分のセ・リーグ4位で前半戦を終えた。
首位カープとの7.5ゲーム差は決して小さいとは言えないが、シーズンは残り60試合以上を残しているわけで、逆転優勝はまだまだ手の届くところにある。
勢いを加速させたい後半戦に向けての好材料の一つが、桑原将志の復調だ。
今シーズンから背番号が「1」に変わり、不動のリードオフマンとなることが期待された桑原だが、オープン戦の打率は.167と低迷。さらに開幕4戦で16打数2安打(出塁も2度のみ)というスタートを切ったところで、早くもスタメンから外されてしまう。
以降は、主にルーキーの神里和毅と出場機会を分け合う形となり、6月を終えた時点(70試合)での先発出場は32試合。ベンチから戦況を見守る時間も長かった。
潮目が変わったのは、7月3日に始まった対ジャイアンツ3連戦からだ。6月10日以来の「1番・センター」に名を連ねた桑原は攻守に躍動し、7月5日のゲームでは4安打の固め打ちでヒーローに選ばれた。
その後の4試合でも連続安打を続け、7月の月間打率は.452のハイアベレージ。“夏男”の覚醒に、ラミレス監督も「いいタイミングを見つけて必ず復調してくれると思っていた」と目を細める。
◆ 飛躍した数字

今シーズンの桑原は、打撃や出塁の安定性という面で苦しんできた一方、盗塁に関しては大きな進歩を見せている。
昨シーズンは20回の企画に対し、成功したのは10回で、盗塁成功率は5割だった。ところが今シーズン前半戦は、13回の企画のうち12回でセーフをもぎ取り、成功率は9割超という高さを誇るのだ。
盗塁といえば、シーズン序盤に走りまくったのが神里だった。やはりライバルの台頭が桑原の尻に火をつけたのか--。そんな仮説をぶつけると、桑原は首を横に振った。
「ライバル意識はないですね。ぼくは2年ぐらい試合に出続けましたけど、その間も誰かをライバルだと思ったことはありません。他人の結果を変えることはできないし、自分が結果を出すことによって自分の勝ち取ったポジションを渡さないようにする。ぼくにできることはそれしかないと思っていました。盗塁に関しても、別に神里だけじゃなく、他球団の選手も含めて見て学ぶことは日々あります。そこはベンチにいる時間が長かったからこそできたことかなと」
レギュラーの座を明け渡さないためには、自分が結果を出し続けるしかない。それと同じように、レギュラーの座を取り戻すためにも、やはり自分自身が結果を出し続けるしかない。
結果への飽くなきこだわりは、試合中の桑原の表情によく表れていた。
たとえば鋭いヒット性の当たりが外野手の正面をついた時、ベンチに戻るなり、ヘルメットやバッティンググローブをたたきつけるように置くしぐさがテレビカメラに捉えられたことがある。打球が飛んだ瞬間は手中に収めたと思えた「結果」が幻に終わったことが、それほどまでに悔しかったのだ。
6月28日のタイガース戦では、同点に追いつくソロ本塁打を放ちながら、ダイヤモンドを一周する際には一片の喜びも見せなかった。
「一喜一憂しないようにとは思っているんですけど、悔しい気持ちはどうしても出てしまう。でも、喜ぶとかはないかな。いまはとにかく、チームが苦しい時に自分が救いたいという気持ちでやっているので、(個人として)うれしい感情は出ないんです」
結果を求める強い思いと同時に、チームへの貢献度も追求する。レギュラー剥奪という苦境を経験したことで、桑原の視野は一段高いところに上がったと言えるのかもしれない。
◆ 新境地へ
次のような発言からも、新たな境地に至りつつあることがうかがい知れる。
「『昨日はよかった』とか『最近は調子がいい』とか、そういうことをあまり考えなくなりました。そもそも『調子』という言葉自体を最近は使わない。『昨日はよかった』『調子がいい』と言ったとしてもスタメンから外されることはあるわけだし、逆に調子は悪いのに結果が出ることだってある。そこは難しいところですけど、結局はその日その日のベストを尽くして、今日の試合に対して自分がどう臨むかを考える。そこしかないじゃないですか」
過去に縛られるでもなく、未来に先回りするでもなく、「現在」にとことんフォーカスする。そのメンタルを持てている桑原は強い。
厳しい試練を与えてきたラミレス監督も、桑原の復活に対する期待感を隠さない。
「私は開幕前、200安打できるというぐらいの期待を彼にかけていた。シーズン序盤はなかなか結果が伴わなかったが、いまのペースで行けば2割8分か、2割9分の打率を残せるはずだ。人は、シーズンが終わった時、『始まりがどうだったか』は覚えていない。印象に残るのは『後半がどうだったか』なんだ。素晴らしいシーズンだったとみんなに思ってもらえるような成績を残してくれると思っているよ」
昨年も7月は調子を上げ、月間MVPを受賞した。今年もシーズン折り返し地点を境に、個人として、チームとしての上げ潮をつくりだせるか。帰ってきたリードオフマンの躍動が、ベイスターズ浮上のカギを握っている。
