変わりゆく外国人選手の起用法
春季キャンプの注目ポイントと言えば、各チームで繰り広げられる争い。前年レギュラーだった選手でもそのポジションが安泰というケースは稀で、新加入選手や勢いのある若手との競争に勝って自身の働き場所を守らなければならない。
そんななか、近年傾向が変わってきているのが、各チームにおける外国人選手の立場だ。“助っ人”という名の通り、かつては即戦力として大きな期待を背負ってチームに加わり、キャンプでのマイペース調整や開幕後も日本の野球に慣れるまでという名目で我慢の時期が与えられることも少なくなかった。
ところが、ここ数年で特に目立つのが外国人選手も競わせようという姿勢だ。これまでは実績を重視して推定年俸5ケタ万円という大物を1人、金銭的に余裕のあるチームは2人ほど連れてくるというのが普通だったが、最近はその予算を配分しながら複数の選手を獲得して、チーム内で競争させたり、または調子の良し悪しを見ながら使い分けたりという起用法が目立つようになってきた。
当然、外国人選手たちも開幕一軍というところを目指していくわけだが、日本人選手と比べるとその門は狭い。なぜなら、一軍枠という制限とともに、“外国人枠”という壁が立ちはだかるからだ。
現在のルールでは、一度に一軍に登録できる外国人選手の人数は「4」名。それも4つの枠を一方に振ることは認められておらず、パターンとしては「投手3:野手1」、「投手2:野手2」、「投手1:野手3」という3つしか選択肢がない。
今回取り上げる阪神では、4つの枠を巡って6名(※)の外国人選手がしのぎを削ることになる。昨季はセ・リーグ最下位に沈んだチームにおいて、外国人選手にかかる期待は大きい。一体だれが出場枠を掴むのか、注目が集まる。
矢野監督に求められる“適材適所”の起用
はじめに、今季の阪神の外国人選手の陣容をおさらいしておこう。
【2019阪神・外国人選手】
(出身国/年齢/利き腕・打席)
▼ 投手
26 呂彦青(台湾/22歳/左)
52 ピアース・ジョンソン(アメリカ/27歳/右)☆
54 ランディ・メッセンジャー(アメリカ/37歳/右)※
77 オネルキ・ガルシア(キューバ/29歳/左)☆
98 ラファエル・ドリス(ドミニカ共和国/30歳/右)
▼ 内野手
31 ジェフリー・マルテ(ドミニカ共和国/27歳/右)☆
99 エフレン・ナバーロ(アメリカ/32歳/左)
☆は新加入
※は以下で説明
こうして並べてみると人数は7人になるが、※印のメッセンジャーは来日10年目を迎えており、昨季FA権の取得に伴って外国人枠を外れた。いわゆる“日本人扱い”の選手となり、外国人枠の計算からは外れている。これはひとつ大きな“補強”と言えるだろう。
新加入は☆印の3人。昨季中日でプレーして来日1年目ながら13勝を挙げた左腕・ガルシアの獲得に成功したほか、新助っ人としてはリリーフ候補のジョンソンと、強打の右打ち内野手・マルテが加わった。
現状の見立てで行くと、メッセンジャーとともにローテの柱として期待がかかるガルシアと、ストッパーとして実績のあるドリス、そして打線の軸として期待のマルテという3人は有力。残る1枠をリリーフ候補のジョンソンと呂、内外野を守れてシュアな打撃が魅力のナバーロという3人で争うことになりそうだ。
矢野燿大監督も頭を悩ませることになりそうだが、選択肢は多いに越したことはない。たとえば、阪神ではキャンプの時期に「バースの再来」と呼ばれた助っ人野手が何人もいたが、シーズンが開幕してみるとまさかの不振に苦しむというパターンも珍しくなく、いつしか「“バースの再来”の再来」というフレーズが用いられるようにもなった。
もし仮にマルテが「“バースの再来”の再来」のようなことになってしまったとしても、昨季途中加入から66試合で打率.276という安定した打撃が光ったナバーロが控えている。不振のまま無理に起用せずに、一度二軍で再調整をという決断もできるだろう。
マルテに限ったことではなく、「誰かが良くない時にも代わりの誰かがいる」というのが外国人選手併用の最大のメリットになる。チームとして投手陣が苦しい時には投手に3つの枠を割いて補填しつつ、打線が苦しい時には投手の枠を削ってマルテとナバーロを同時に使う。ペナントレースを勝ち抜くには、こうした“適材適所”の用兵術が必要となってくるのだ。
昨季はファーム日本一に輝いた矢野燿大監督だが、一軍での采配は初めてのことになる。新指揮官のマジックは炸裂するのか。矢野監督の手腕に注目が集まる。